基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part44】なぜ小児に加温加湿器が必須なのか?なぜ気管分泌物が吸引しにくいのか? Part2

 今回は前回に引き続き、なぜ小児に加温加湿器が必須なのか?

 小児がなぜ気管吸引しにくいかを前回共に掘り下げると共に、その対策としての加温加湿器設定などについて説明します。

 小児が気管吸引しにくい背景については、前回説明しましたが、解剖学的未熟性、生理機能の未成熟、分泌物の性状、人工呼吸管理特有の問題など、複数の要因が複雑に絡み合っています。これらは単独ではなく、互いに増悪し合うため、成人と同じ吸引手技では十分な排痰効果が得られないことが多い。さらに、加温加湿が不十分であると分泌物の粘稠化が進み、吸引困難が顕著になるため、加温加湿器の適切な設定は排痰管理の中心的役割となります。

1.小児が気管吸引しにくい主な原因のおさらいと追記

① 気道が細く、軟らかく、閉塞しやすい

 小児の気道径は成人より著しく細い気道抵抗が高い。さらに、わずかな分泌物の貯留によって気道抵抗が上昇します。気道壁は柔らかく、陰圧吸引によって容易に虚脱し、吸引チューブの先端が分泌物に到達する前に気道が潰れやすい。特に乳児では、吸引時の陰圧が気道全体の高コンプライアンスに影響し、分泌部が動く前に気道が先に閉鎖してしまうこともあります。

② 咳嗽反射と呼吸筋力が未熟で、痰を中枢側へ押し出せない

 小児は咳嗽反射が弱く、分泌物があっても十分な咳嗽が誘発されません。胸郭コンプライアンスは高く(柔らかい)、横隔膜依存性の呼吸であるため、咳嗽時の胸腔内圧が成人ほど高まらない。結果として、分泌物が中枢側へ移動せず、吸引チューブが届かない深部に滞留します。

③ 分泌物が粘稠化しやすく、気道壁に固着する

 小児は呼吸数が多く、体重当たりの分時換気量は成人の2~3倍になります。小児の気道では、成人よりも体重当たりで多くの気体を加温・加湿する必要があるため、気道が乾燥しやすい。加温・加湿が不十分であると分泌物の含水率が低下し、粘度が上昇します。粘稠化した分泌物は気道壁に強固に付着し、吸引チューブの側孔に入りにくくなります。ウイルス感染(RSウイルス、hMPV(ヒトメタニューモウイルス)、ライノウイルスなど)では杯細胞の過形成が起こり、粘稠で糸を引くような分泌物が形成されます。

④ 線毛運動が未熟で、分泌物の自然排出が進まない

 小児の線毛は成人ほど成熟しておらず、打頻や協調性が低い。乾燥や感染で線毛運動が容易に障害され、分泌物が末梢に滞留しやすくなります。自然排痰が進まないため、吸引の助けを必要とすることが増加します。

⑤ 人工呼吸管理特有の問題(リーク・加湿不足)

 乳児ではカフ無しの気管チューブが使用されることが多く、リークが大きいと陽圧が末梢まで届かず、分泌物を中枢側へ押し出す力が弱まります。また、リークが大きいほどリーク補正のため(PEEPや換気の維持)患児に送気されるガスが増加し、呼気相でも患児方向にガスが送気され続けます。気管分岐部には換気量の数倍のガスが吹き付けられることもあり、気道の乾燥化を助長します。また、加温加湿器の設定が適切であっても、気道内の相対湿度、絶対湿度が低下しやすく、更なる分泌物の乾燥化を起こすため、分泌物の吸引は困難となります。

2.対策としての加温加湿器の設定

 小児の排痰管理において、送気ガスの加温・加湿は「分泌物を動かすための基盤」であり、吸引手技や吸入療法よりも加温加湿器の適正な設定変更を優先して行う必要があります。適切な加温・加湿は分泌物の粘度を下げ、線毛運動を改善し、吸引効率を向上させることに繋がります。

① 基本設定:37℃前後の完全加湿(飽和)を目指す

 小児では成人よりも気道乾燥の影響が大きいため、加温加湿器によって、理想気体である37℃・相対湿度:100%、絶対湿度:44㎎/Lを目指します。この点については、既に何度もこの連載で触れているため、読み返して頂きたいです。これは生理的条件に近く、線毛運動が最も効率的に働く温度域です。加温加湿器の設定を口元温度:40℃・加温加湿チャンバー出口温度:37℃に設定すれば容易にこの理想気体が作れると思っている医療者が多いが、この点ついても何度も説明してきましたが、この温度の調節は見かけ上であり、様々な換気条件や環境によって理想気体に到達していないことが多い。温度の維持よりも相対湿度:100%を優先した加温加湿器の設定を行うことが必須です。

② リークが大きい場合は温度を1〜2℃上げて補正

 リークが大きいと、送気されるガスの増加によって加温加湿器で設定した温度・湿度が想定以下の加温・加湿状態になっていることが多く、更に気道内に届く前に水分が失われます。 そのため、設定温度を1〜2℃上げることや、呼吸器回路の保温を強めるなどの調整が必要となります。

③ 分泌物が粘稠な場合は「相対湿度>温度」の調整を優先

 分泌物が粘稠の場合では、温度を1〜2℃上げると前記しましたが、温度だけが上がり、相対湿度が低下します。高温・低相対湿度の送気ガスは、水分を取り込もうとするエネルギーが大きくなり、多量に吹き付けられる気管分岐部では、気化熱として水分が奪われます。よって、温度の設定も重要ではあるが、相対湿度を100%にすることを先ずは優先することが重要です。

④ 過加湿による水滴(rainout)対策

 過加湿は呼吸器回路内の水滴を増やし、気道内に水が流入して咳嗽を誘発し、逆に排痰を妨げることもあります。

対策として、呼吸器回路のチューブ保温の強化や加温加湿器の位置調節、ウォータートラップの適切配置も重要となります。

 患児の近位の吸気回路にて結露が付くようにするのではなく、曇った状態に維持することが、相対湿度が100%に近い状態に調節できていることが確認できます。決して、乾燥状態にしないことを常に頭に入れて人工呼吸管理にあたる必要があります。

まとめ

 小児が気管吸引しにくい理由は、 ①気道が細く閉塞しやすい ②咳嗽力が弱く痰を押し出せない ③痰が粘稠化しやすい ④線毛運動が未熟 ⑤人工呼吸管理による加湿不足 という多因子が重なるためであります。

 これらに対し、加温加湿器の適切な設定は排痰管理の中心的介入であり、分泌物の粘度低下・線毛運動改善・吸引効率向上に直結します。特に小児では、成人以上に「温度と湿度の最適化」が排痰の成否を左右します。

 次回も、小児に対する分泌物管理について説明したいと思います。

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。

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