基礎知識

【よくわかる!加温加湿入門 part4 】人工呼吸管理で加温・加湿が必要な理由~人工呼吸器から送気されるガスを考えてみる~

今回は、なぜ人工呼吸管理を行う時に加温・加湿が必要なのかについてお話しします。

まずは、人工呼吸器から送気されるガスについて考えてみます。

人工呼吸療法とは、気道から肺胞にかけてガスを送気し陽圧を加えて換気を行う治療法です。
人工呼吸器から送気されるのは、通常、21%の空気もしくはそれ以上の酸素濃度で、
時に100%の酸素濃度で治療しなければならない重症な患者さんもいます。

では、人工呼吸器から送気されるガスの温度と湿度はどのくらいになっているでしょう。

人工呼吸器を動かすには駆動用のガスとして酸素と空気が必要です。
病院などの医療施設には、中央配管から供給される酸素や空気があり、そのガスを人工呼吸器の駆動ガスとして使用することが一般的です。
中央配管から供給される酸素は、病院の建物の外に液体酸素を溜めたコールドエバポレーター(以下:CEと呼びます)
と呼ばれる装置が設置されています。(図1)

コールドエバポレーター

図1:コールドエバポレーター

 

酸素は-183℃に冷やすと液体になります。
CEに貯められた液体酸素は、自然に気体に変化していきます。
気体に変化する際に高い圧力が発生するため、この圧を中央配管で決められた圧力に調整されます。
電気の必要がないため、停電が起こっても酸素の供給が止まることはありません。
気化した酸素の温度は、室温とほぼ同じになり、この相対湿度は0%です。
液体酸素から作られる酸素は純酸素なので酸素濃度は100%です。

中央配管から供給される空気は、大気を利用しているので大気と同じ21%の酸素濃度になります。
大気中のガス(空気)をポンプによって吸い込み、塵や油分などを除去するために何層かのフィルターを通させてクリーンな空気にします。
そして、中央配管で決められた圧力になるように圧縮して供給されます。

水分はフィルターなどを介すことで除去されるため、ほぼ水分は含んでいませんので相対湿度はほぼ0%と考えて良いでしょう。
温度は室温とほぼ同じになります。

また、中央配管から供給される空気には、人工空気というものもあります。
人工空気は酸素と窒素を混合して作られ、酸素も窒素も乾燥した(相対湿度:0%)ガスであるため、
混合された人工空気も相対湿度は0%になります。

中央配管から供給される酸素や空気の相対湿度はほぼ0%なので、細菌やバクテリアが生存できる状態ではありません。
よって、そのガスそのものには感染リスクはありません。

人工呼吸器の吸気出口にバクテリアフィルターを装着することがありますが、感染防止の意味では必要ありません。
配管から流れてくる錆などを除去するという考えもありますが、
この様な大きなゴミは人工呼吸器本体の入口(中央配管のホースの接続口)で除去されます。
あえて、このバクテリアフィルターが必要性を考えると、
呼気回路や吸気回路からガスが逆流した場合に、本体を汚染させない働きがあると考えられます。

よって、中央配管を使用して人工呼吸器を動作させる場合に、送気されるガスの温度は室温程度になっていますが、
相対湿度はほぼ0%であり、絶対湿度も0/Lです。

病院の集中治療室や手術室等の中央配管には酸素と空気の両方があります。
しかし、一般病棟の中央配管には酸素しかない場合が多くあります。
この様な場合には、ブロワ―ポンプを内蔵した人工呼吸器を使用します。
ブロワ―ポンプとは大気を吸いこんで人工呼吸器が使用できる圧力に調整する装置です。
ブロワ―ポンプで作られる空気の相対湿度、絶対湿度はほぼ大気と同じになります。

人工呼吸器の本体内部を通過する際に人工呼吸器の温度で若干温められるので絶対湿度は変わりませんが少し相対湿度は下がると考えます。
酸素は中央配管を使用しますので、相対湿度は0%になります。

在宅用人工呼吸器にもブロワ―ポンプが内蔵されており、動作に必要なガス(空気)を吸い込むようになっています。
前述した通り、人工呼吸器から送気されるガスの相対湿度と絶対湿度は大気とほぼ同じで、温度上昇によりやや相対湿度は下がります。
近年の在宅人工呼吸器は200L/分もの流量を送気できるパワーを持っています。
在宅人工呼吸療法では、高圧酸素を使用することは基本的にありません。
酸素濃縮器もしくは液体酸素装置からの供給であり、流量は最大でも10L/分程度、通常は3L/分型の酸素濃縮器が主に使用され、
ブロワ―ポンプで吸い込まれた空気と混合されて人工呼吸器から送気されます。

酸素濃縮器

 

酸素濃縮器で作られる酸素も液体酸素装置も相対湿度はほぼ0%のため、
酸素を付加して行われる在宅人工呼吸療法では、相対湿度・絶対湿度は低下することになります。

ブロワ―ポンプで吸われたガス(空気)を優先して送気する在宅用人工呼吸器では高濃度酸素することはできず、
送気されるガスは大気より少し低い相対湿度と絶対湿度になります。

在宅用人工呼吸器では、本体内部に酸素を貯留することで高濃度酸素にできるものもあり、
酸素を優先に送気する構造を持つ人工呼吸器では、相対湿度は酸素に依存するため高濃度の酸素濃度になるほど低値になります。

ブロワ―ポンプを使用した人工呼吸器では、大気の吸い込み口にフィルターがあり、大きなホコリはそこでトラップされます。
しかし、バクテリアや細菌をトラップできるようなフィルターではないため、
人工呼吸器の吸気出口にはバクテリアフィルターを使用します。

小さなホコリによって、バクテリアフィルターが灰色になることも多くありますが、
これは、しっかりとフィルターの効果が得られていると考え、高い抵抗が発生しなければ1患者毎もしくは1か月毎の交換で良いと考えます。

今回は、人工呼吸器の制御方法によって送気されるガスの相対湿度や絶対湿度について説明しました。
人工呼吸器の制御によってガスの相対湿度・絶対湿度は違います。
いずれにせよ、生理的な(自然呼吸の時)肺胞の相対湿度・絶対湿度よりも低い状態になりますので、加温・加湿をする必要があります。

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。

>>KIDS CE ADVISORYのHPはこちら

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