【よくわかる! 加温加湿入門 Part3 】人の気道は高性能な加温・加湿装置
今回は、人の気道における加温・加湿機能についてお話しします。
温度・相対湿度・絶対湿度の関係と結露が起こる原理が理解できたところで、
人が呼吸しているときに、空気の温度・相対湿度・絶対湿度が肺胞に達するまでにどう変化していくかについて考えていきましょう。
人の気道の加温・加湿機能はとても優れています。
今、部屋の空気が20℃・相対湿度:50%・絶対湿度:9mg/Lだったとしましょう。
この空気が鼻から上気道を通過する間に加温と加湿が行われていきます。
肺胞に運ばれる間に、咽頭では30℃・相対湿度:95%・絶対湿度:29mg/Lになり、
気管分岐部では34℃・相対湿度:100%・絶対湿度:38mg/Lになります。
そして、肺胞に達すると37℃・相対湿度:100%・絶対湿度:44mg/Lになります(図1)。
“鼻から“とあえて書きましたが、鼻腔と副鼻腔で構成される鼻の役割は大変重要です。
鼻は、吸気ガスの加温・加湿機能のみならず、粘膜線毛機能や反射神経による異物の排泄・除去や局所の粘膜免疫による生体防御、
そして嗅覚としての役割があります。
呼吸苦で口呼吸をしていると、鼻の持つ機能が働かないことになり、
乾燥ガスの刺激で咳が出たり、喉が渇いたり、感染性の異物の除去もできず感染症を起こしやすくなります。
副鼻腔炎の人が口呼吸となりアレルギー物質をブロックできなくなり喘息を合併するというのもこれが原因です。
咽頭に至るまでに肺胞に必要な水分の65%、気管分岐部では85%に達します。
上気道で多くの水分が吸気ガスに与えられることになります。
鼻・咽頭から呼吸細気管支におよぶ粘膜上皮組織(粘膜線毛運動機能)に高性能な加湿機能を有しているのです。
粘膜上皮組織は,ゲル層とゾル層と呼ばれる二重構造となっています(図2)。
上層がゲル層,下層がゾル層です。
ゾル層は水分に富んでおり,分泌物が流動して吸気ガスへの水分の供給源となります。
ゲル層は,粘稠であり線毛運動によってトラップしたホコリなどの異物やバクテリアやウイルスを上部に押し上げ、
排出する機能を持っているため感染防止機能を有していることになります。
粘膜上皮組織は,空気が通過する瞬間に水分と熱を供給します。
このとき粘膜上皮組織では,水分が奪われ乾燥化が起こりますが、不足した水分は体から補充されます。
呼気においては肺胞から大気に吐き出される際には,水分と熱の再吸収が行われます。
温度の低下と乾燥化した粘膜上皮組織に熱と水分を取り込む作用が起こり,再吸収が促されます。
しかしながら,吸気時に供給した水分のすべてを再吸収することはできず,再吸収できる水分量は10mg/Lです。
肺胞の絶対湿度は44mg/Lで、再吸収できる水分は10mg/Lですから、差し引き34mg/Lが外気に吐き出されることになります。
窓ガラスに呼気を吹き付けると曇ります。
呼気の温度より温度が低い窓ガラスに呼気を吹き付けると、呼気が冷やされて瞬間的に結露が起こって窓ガラスが曇るのですね。
寒い冬に外に出て息を吐くと,息が白くなります。これも、呼気に水分が含んでいることの説明がつきます。
呼気に含まれる水分が冷たい空気によって一瞬にして冷やされ氷になるためです.人が呼吸をするたびに水分を外に捨てている証明です。
これは不感蒸泄の一つになります。
呼気によって外に捨てられる水分の量(絶対湿度)は34mg/Lですから、1日に吐き出される水分を計算すると。。。
1回換気量500ml、呼吸回数12回/分とすると、1日の換気量は8640Lになります。
34mg/Lの割合で水分が捨てられますが、吸気ガス(大気)の絶対湿度を9mg/Lとすると、その差は25mg/Lになります。
8640L×25 mg/L=216000㎎ ➡ 216g ➡ 216ml
人は呼吸によって1日約200mlの水分が失われることになります。
ですから、人は水分を摂取しないと生きていけないのです。
健康な人では、呼吸によって水分が外に捨てられることは,決して悪いことではなく,体内では効率的な制御が行われています。
しかし,温度も相対湿度も低い乾燥した冬場であったり,ジメジメと湿度が高い夏場であってもエアコンで除湿されてしまうと、空気中の水分が少なくなり,体内の水分制御のバランスが崩れ,喉が痛くなったり,風邪をひきやすくなったりします。
ましてや人工呼吸器によって管理されている患者さんでは,大きくバランスが崩れる状態に置かれます。
気管カニューレが挿入されて人工呼吸が行われる患者さんでは、呼吸によって体温と水分が奪われやすい環境にあり、体温維持、水分コントロールに影響することを念頭に入れておかなければなりません。
呼吸中の空気の温度と水分の変化を図3にまとめましたので、どう変化していくかをイメージできるようになって下さい。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。