基礎知識

【よくわかる!加温加湿入門 part6 】人工呼吸管理で加温・加湿が必要な理由~加湿不足により、気道や肺でなにが起こるか考えてみよう Vol.1~

前回に続きなぜ人工呼吸管理を行う時に加温・加湿が必要なのかについてお話しします。
今回は、
加湿不足により、気道や肺でなにが起こるかについて考えてみます。

気管チューブを挿入して行人工呼吸(IPPV)はもとより、
上気道を介して行う人工呼吸(NPPV)でも加温加湿器が必須であると前回お話ししました。

また、ハイフローセラピーでも加温加湿器は必須のアイテムです。

では、加温加湿器を使用しなかったり、加湿不足のガスを送気したり、
加温加湿チャンバーの水が空になり空炊きをしてしまったなんてことが起こったら、
気道や肺はどうなるか考えてみましょう。

人工呼吸管理における加温・加湿の目的を一つずつ説明していきましょう。

 

1.線毛上皮組織の水分の維持

気道の表面にある線毛上皮組織。
気道に付着した汚染物質は粘液と共に分泌物として押し上げ排出する役割を果たしています。
この線毛を常に動かしておくことができるのは、
気道表面を覆う(線毛を覆う)水分を含んだゲル層、ソル層あるからです。(図1)
乾燥気体が送気されると、気化熱と言う形で水分が奪われます。
ですので、水分を奪わないようにするために加温加湿器が必要になります。

図1

 

2.線毛運動の動きを保つ

常に動いている線毛に乾燥気体が送気されると、瞬間的に線毛の動きが停止します。

徐々に動きが遅くなると考えがちですが、一瞬にして止まってしまうのです。
ですから、一時も乾燥気体を送気してはいけないのです。(図2)

図2

 

3.線毛の損傷を防ぐ

ゲル層・ソル層の水分が奪われると、線毛を保護する水分が失われます。
線毛を保護していた水分がなくなると、線毛が損傷していきます。
線毛がボロボロになってしまうのです。壊れてしまった線毛が再生するには1か月かかると言われています。

再生するといっても、人工呼吸管理中は自然な呼吸ではない状態であるため、
同じように1か月で再生するのかと考えると疑問が残ります(1か月以上かかる?)。
ですから、線毛を損傷させないためにも持続的な加温・加湿が必要なのです。

4.感染防止メカニズムの機能維持する

1~3が正常に機能することで、感染防止メカニズムの機能が維持されます。
この機能が維持されることで、上気道感染の防御が可能になります。

エビデンスとしてはないですが、呼吸器感染によって暴露された気道や肺には、細菌やウィルスが多量に存在し、
培地になっていることになります。この増殖を防ぎ、咳嗽によって排痰することは早期治療に繋がります。
分泌物は粘稠で多量になるため、この性状を排痰しやすいように水分を摂取し、
しっかりと分泌物を柔らかくすることが必要です。
人工呼吸中においては、加温・加湿によって分泌物を柔らかい状態に常に保ち、
気管吸引によって排痰することが早期治療に繋がります。

5.不感蒸泄量の増大を防ぐ

人は呼吸をすることで、水分が奪われるということは既にお話ししました。
この失われる水分は不感蒸泄の一つでありますが、健康な人であれば、
通常の食事と飲水でコントロールされ、分泌物が硬くなることはありません。

しかし、人工呼吸管理中は、不感蒸泄が増える状態になるのです。
加温加湿器を使うと気道に水分を供給していると思われている人が多いですが、その考えは間違いです。
いくら高性能な加温加湿器を使用しても、私たちの持っている気道の加温・加湿機能には適わないのです。

よって、加温加湿器は、通常の私たちの不感蒸泄にできる限り近づけるように調節することが重要なのです。
不感蒸泄を減らす目的はなく、不感蒸泄の増大を防いで、できる限り水分バランスを正常に近づけると考えて下さい。
このバランスが崩れると、分泌物の硬化に繋がるのです。

吐息

6.熱の損失を防ぐことである。

私たちの呼気は温かいです(34℃程度)。と言うことは、体内から熱が奪われていることになります(図3)。
加温・加湿しないガスを送気すると、低温のガスが気化熱によって気道から熱を奪っていきます。
特にIPPV・TPPVではこの作用は大きくなります。気道と食道・大動脈は身体の中で縦に並行に走行しています。
気道に温度が低いガスが送気されると、食道が冷やされて、大動脈が冷やされ、
大動脈から流れる血液の温度が低下するため、全身の体温が低下します。

気道から冷たい温度のガスを送ることは中心冷却の状態になっているのです。
体温低下に対して熱を発散して平常体温を保とうとしますが、体温コントロールが未熟な新生児では、
十分に体温を保つことができなくなり、全身状態のコントロールに影響します。

よって、送気ガスを加温することは体温維持にも影響することを理解しておいて下さい。
なお、逆に、加温加湿器の温度によって体温上昇が起こってしまう場合もあります(中心加温)。

図3

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。

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