基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part33】結露の影響を考えてみよう① 患者の自発呼吸との同調性

今回は、患者の自発呼吸との同調性に対する結露のデメリットについて説明します。

 患者の自発呼吸に合わせて行う換気モードの総称をPTVPatient Trigger Ventilation)と呼びます。 PTVには、SIMVA/CPSVという換気モードが一般的です。最近ではNAVA(神経調節補助換気:Neurally Adjusted Ventilatory Assist)も多く使用されるようになったPTVの一つです。

 人工呼吸器が自発呼吸を認識するための設定をトリガー設定と呼び、患者の自発呼吸にあわせてトリガー感度を調整します。自発呼吸を認識する方法としては、圧トリガー方式とフロートリガー方式の2つが一般的です。

   圧トリガーは、設定されたPEEPが自発呼吸によって何㎝H2O低下したかを設定して自発呼吸を認識します。呼吸器回路に結露が貯留すると、PEEPは貯留した水の動きによって変動します。 PEEPの変動が、圧トリガー感度の設定値以上の変化となれば、患者の自発呼吸とは関係なく自発呼吸と判断され換気が開始されてしまいます。成人では、吸気圧の変化を捉えやすいように呼気相に流れるガスは少ない(もしくは流れていない)。よって、貯留した結露によるPEEPの変動は少ないですが、呼気相に常にガスが流れている(ベースフロー・バイアスフロー・定常流)新生児用人工呼吸器の方が、貯留した結露によるPEEPの変動が大きくなります。このため、呼気相にガスが流れている新生児用(小児用も含め)人工呼吸器において、吸気トリガーエラーを起こし易くなります。

 また、フロートリガーは、呼気相において、何L/分の吸気速度で患者が吸気努力をしたら、自発呼吸として認識する方法です。成人では、3L/分にトリガー感度を設定することがありますが、これは0.1秒間に5mlの吸気努力をしたときであり、新生児においては0.3L/分にトリガー感度を設定すると、0.1秒間に0.5mlの吸気努力を認識する設定となります。 呼吸器回路に結露が貯留すると、PEEPは貯留した水の動きによって変動します。PEEPが変動するということは、呼吸器回路内の空気も吸気方向⇔呼気方向の動きが連続することになります。 圧トリガー方式と同様にフロートリガー方式においても呼吸器回路内に貯留した水の変動によってフローが変動し、この変動がトリガー感度の設定値以上の変化が起これば、患者の自発呼吸とは関係なく自発呼吸と判断され換気が開始されてしまいます。 フロートリガー感度の設定される数値から分かる通り、小さい吸気努力を捉えようとする低換気量の低体重児で吸気トリガーエラーが起こり易くなります。

 吸気トリガーエラーは、SIMVにおいては設定された換気回数が、自発呼吸と合わずに換気されます。SIMVPSVA/Cでは、自発呼吸とは関係なく、自発呼吸と認識された全てのトリガーに対して換気が行われます。これはオートトリガーと呼ばれ、本来、PTVは、患者の自発呼吸と同期させることによって、ファイティングを減らすために使用される換気モードですが、吸気トリガーエラーが発生することによって、ファイティングが発生しやすくなります。

 近年の人工呼吸器は、ファイティングが起きても、高圧警報が発生するようなことがないため、ファイティングは無くなったと説明される医療者もいますが、設定された最大吸気圧もしくはPSVの圧が加わっている間に呼気が起こることによって、呼気努力が発生し、患者の呼吸仕事量が増加することや、不穏になること、SpO2の低下、血圧変動など、患者にとって不適切な換気となります。このようなファイティングを筆者は「隠れファイティング」と呼び、隠れファイティングを減らす人工呼吸療法の設定を推奨している。

 時に、隠れファイティングを減らすために、吸気トリガーを行わないIMVモードの方が患者の呼吸が安定することもあります。

 吸気呼吸信号の伝達とその変化は 

脳からの呼吸信号⇒脊髄⇒末梢神経⇒呼吸筋(横隔膜・呼吸筋・呼吸補助筋)

⇒胸腔内圧の低下⇒肺胞内圧の低下⇒胸壁・腹壁の拡張⇒上気道からの吸気の流入⇒上気道の圧低下

 この様な吸気信号の伝達や変化をみると、圧トリガー方式よりフロートリガー方式の方が先に自発呼吸の変動を認識できるため、フロートリガー方式が開発され、現在もフロートリガーが優先的に使用されています。(圧トリガー方式の設定が無い人工呼吸器も増加しています)

 圧トリガー方式よりフロートリガー方式の方が性能は良いが、呼吸器回路に貯留する水の変動による吸気トリガーエラーはフロートリガー方式でも発生してしまいます。

 一時期、胸壁や腹壁に風船上のセンサーを装着して、風船の空気圧の変化で吸気努力を認識し、自発呼吸に同期させる方式もありました。これは呼吸器回路内に貯留する水の変動の影響がないため、吸気トリガーエラーは少ないです。しかし、フロートトリガー方式の開発により現在ではほぼ見かけなくなりました。(割と性能は良かったが呼気トリガーができないことや、後述するNAVAに敵うようなものではありませんでした)

 NAVAは横隔膜の電気信号を測定して自発呼吸を認識するため、現在の人工呼吸器のなかでは一番早く自発呼吸を認識できます。よって、NAVAは自発呼吸との同調性は一番優れています。また、呼吸器回路内に貯留する水の変動(PEEPの変動)の影響がないことも有益であります。しかし、横隔膜の電気信号を取るために胃管の機能が一体となったカテーテルの挿入が必要なことや、電気ノイズによる影響などもあるため、まだまだ改善すべき点があると考えます。

 今回は、加温加湿器を使用する際に発生する「結露による患者の自発呼吸との同調性への影響」について説明しました。

 次回も、加温加湿器を使用する際に発生する結露の影響について説明します。

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。

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