基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part29】人工鼻と加温加湿器の併用は禁忌~ちょっと詳しく考えてみましょう~

 前回まではHFOモードについて話を進めてきました。

 ここでちょっと話を変えて、トラブルを減らすために知っておいて欲しい加温加湿器(人工鼻を含む)について説明したいと思います。今回は人工鼻の使用における禁忌事項についてです。 先日、ある重症児デイケアのスタッフにレクチャーをしていたのですが、この時に、「気管切開で使用する人工鼻で酸素を流す時に加湿するのは禁忌ですよね。分泌物が硬くなるので、水分が足りないと思うのです。」という質問がありました。“人工鼻と加温加湿器の併用は禁忌“ということはしっかりと覚えておかないといけない禁忌事項です。(図1参照)

 人工呼吸器で使用される人工鼻は、人工呼吸器から送気されるガスの全てを通過するため、この吸気ガスが加温・加湿されると、人工鼻がビチャビチャになり詰まってしまう事になります。 人工鼻が詰まってしまうと、換気が低下し、胸も上がらなくなり。ガス交換に影響しますので、この組み合わせを行っていけないことをしっかりと覚えておきましょう。 では、今回の質問は、「気管切開をしていますが、人工呼吸器は使用していません。気管切開用の人工鼻は、呼吸器との接続部はなく、大気を吸える構造になっています。また、酸素を投与するために人工鼻の外側に取り付けるデバイスがあったり、人工鼻そのものに酸素投与ポートが付属しているタイプもあります。この酸素投与は、低流量システムの酸素療法になりますので、大気を吸うと共に酸素が混合されて吸うことになります。 この時、酸素に水を通過させて加湿を行うと、相対湿度は何%になるでしょうか。」

 酸素の相対湿度はほぼ100%になります。では、温度はというと室温程度になります。よって、加湿はされていますが加温はされておらず、温度が低いので多量の水分を含んでいるわけではありません。この酸素は大気と混合されるため、人工鼻が詰まることはありません。したがって、ご質問の答えは、「気管切開に人工鼻を使用して自発呼吸をしている時、分泌物が硬くなる時には、酸素を加湿して投与しましょう」となり、加湿は禁忌ではありません。 では、気管切開孔の上に被せるトラキマスクより酸素投与やネブライザー療法を行うことを考えてみましょう。まずは、トラキマスクより酸素を流して低流量システムで酸素療法を行う場合です。低流量システムは大気を吸いながら酸素療法を行う方法であるため、加湿は可能になります。また、人工鼻を外す必要はありません。

 しかし、低い酸素濃度であったとしても、エアロゾルを発生させるネブライザー療法は、多量の水分が送気させるため、人工鼻を外さずに投与すると、人工鼻はビチャビチャになり詰まってしまうため、人工鼻は外してから行う必要があります。 ネブライザー療法では加温も併用させるため、この場合は更なる多量の水分が送気されるので絶対に人工鼻は外してください。気管切開孔からネブライザーを直接投与するということは、古くから多く行われている治療法になりますが、ネブライザーの回路は汚染しやすく、8時間毎にホースを交換する必要があるという論文が出されているため、感染リスクの高い治療法であることを知っておきましょう。

“人工鼻と加温加湿器の併用は禁忌“という教えに対して、実際の臨床使用における考え方を説明しました。トラブルのない医療の提供に役立てばと思います。

次回も、加温加湿器のトラブルについて説明したいと思います。

 

 

 

 

 

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。

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