【よくわかる!加温加湿器入門 part28】加温加湿器の設定⑥HFOモード使用時 ③ジェット式人工呼吸器の場合
HFO換気モードにおける加温加湿器の設定についての4回目になります。
前回は、ドレーゲル社製新生児用人工呼吸器のHFOの制御と加温・加湿の設定について説明しました。
今回は、SLE社製人工呼吸器のHFOにおける加温加湿器の使用の注意点について説明します。
SLE社製人工呼吸器のHFOの制御を図に示します。
SLEのHFOの制御は、呼気側からジェットを流すことによって制御されます。
HFOだけでなくコンベンショナルの換気モード(SIMVやA/C、PSVなど)も呼気側から口元に向かって噴き出すジェット流で制御されています。
呼気側にある呼気ブロックからジェットを吹くことで患者に換気できるのは、呼吸器回路の吸気回路の末端(口元コネクターの手前)に「リストリクター」と呼ばれる抵抗コネクター(小さな穴が開いている)があるために、呼気からのジェット流が吸気回路に流れることなく、患者に向かって流れる構造になっているためである。 呼気からのバックフローで制御されていると考えると分かりやすいのではと思います。SLEの一番の特徴になっています。
吸気回路には一定の流量が流れています。吸気ガスはリストリクターを介してフォワードジェットが作られるため、吸気回路内は高い圧に保たれています。
吸気回路が外れると吸気回路内圧が低下することで、回路外れの警報が作動します。高い圧から低下するため、回路外れの警報は俊敏に作動します。
この特殊な換気制御法のメリットは、呼気回路が大気に開放しているため、呼気抵抗が低く、呼気仕事量の軽減に役立つとされています。
しかし、呼気ブロックの結露や、呼気ブロックからのジェットの音が大きいことを軽減するために呼気回路と呼気ブロックの間にバクテリアフィルターの挿入を勧めているため、せっかくの呼気抵抗が低いというメリットが無くなってしまいます。
コンベンショナルの換気においては、最大吸気圧を制御するリバースジェットとPEEPを制御するリバースジェットの2つで調整されます。
HFOにおいては、最大吸気圧を制御するリバースジェットと大気側に流れるジェットを交互に切り替えることでHFOの振幅を作ります。この2つのジェットのスピードを変えることでHFO の周波数が調整できます。また、このジェットを増やしたり減らしたりすることで振幅(アンプリチュード)の調整ができます。MAPはPEEPを制御するリバースジェットを連続的に流すことで調整されます。
呼気ブロックから噴き出すガスは、配管から供給される酸素と空気であり、吸気ガスの酸素濃度と同じになります。よって、呼気から噴き出されるガスは相対湿度が0%の乾燥した気体です。
SLE社はバックフローは口元までは達しないため、加温加湿された吸気ガスしか患者には流れないという説明をしておりますが、カフ無しの気管チューブが使用される場合にはリークが生じるため、呼気相においても常に患者側にバックフローが流れ、吸気時にはリークを補正するためのガスが上乗せされるため、患者には乾燥したガスが供給されることを考える必要があります。
また、吸気ガスは、高い圧に保たれた吸気回路からリストリクターを介して口元コネクターに噴出されるため、一気に圧力が低下します。圧力が低下することによって、温度が低下し、結露が発生します。よって、コンベンショナルの換気においては、患者に送気されるガスの相対湿度は100%ですが、温度が低下したことによって(結露したことによって)絶対湿度は低下します。結露が多いから、加温・加湿されたガスが十分に届いていると考えるのは危険です。
HFOにおいては、温度低下し絶対湿度が低下した吸気ガスと呼気からの乾燥したガスが患者に供給されるため、乾燥気体が患者に送気されていることを考える必要があります。
呼気回路に結露が溜まらないように(ウォータートラップが不要になる)ヒーターワイヤーが挿入されている呼吸器回路も増えてきましたが、呼気回路が乾燥しているということは、乾燥気体が患者に送気されやすくなります。よって、SLE人工呼吸器では、呼気回路にヒーターワイヤーがなく、結露が発生する呼吸器回路を使用するのが患者にとって良いと考えます。
この様に、口元コネクターで温度低下し、結露が発生し絶対湿度が低下することや、呼気ブロックから乾燥気体が患者に向けて送気されること、さらに新生児ではカフ無しの気管チューブの使用によってリークが存在するという、患者に十分に加温・加湿されたガスを供給するのが難しい人工呼吸器であることを知って、使用する必要があります。
呼吸器回路の曇りや結露によって患者に供給されるガスの状態を知ることが難しいSLE人工呼吸器では、患者の分泌物の状態(量や硬さ)によって評価する必要があり、加温加湿器も分泌物の状態に合わせて微調整が必要になります。
患者に適した吸気ガスに設定するためには、口元温度と加湿チャンバーの出口温度を微調整できるHydraltis(ハイドラルティス)9500FM加温加湿器が効果的に使用できるのではと考えます。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。