【よくわかる!加温加湿器入門 part26】加温加湿器の設定④ HFOモード時①ピストン式人工呼吸器の場合(No.2)
特殊な換気モードにおける加温加湿器の使用法について前回より開始しました。
前回の換気モードはHFOにしましたが、
「HFOってどんな制御で行われているの?」
「呼吸器回路に流れるガスはどうなっているの?」とHFOの制御を理解していないと加温・加湿について説明しても理解しがたいことになるため、前回はピストン式のHFOの制御の要点に絞って説明しました。加温・加湿に関することに触れることができず、失礼しました。
今回は、ピストン式HFO における加温加湿器の設定などの注意点について説明していきます。
コンベンショナルの換気モード(SIMVやA/Cなど)であれば、人工呼吸器から送気されたガスは、吸気回路から呼気回路に流れて行き、その途中にある口元コネクターから吸気時(呼気弁が閉まった時)に患者に送気され、呼気弁が開放されると患者より吐き出された呼気は呼気回路に向かって吐き出されるという一方向性のガスの流れになります。 基本的に、呼気から逆流したガスが患者に流れるという考え方はありません。
しかし、ピストン式HFOのピストンは、呼気回路の末端に設置されており、呼気回路に流れてくるガスに対して、逆行性に口元に向かってピストンを動かすことで、設定されたストロークボリュームの一部が肺胞に流れて行きます。HFO中はベースフローとして10L/分程度のガスが持続的に人工呼吸器から送気され、呼気弁より排気される順行性のガスが存在します。このベースフローによって常に口元コネクター部のガスがフレッシュガスに入れ替わっていれば良いですが、ピストンが1秒間に15回もの送気と脱気が繰り返されるため、吸気ガスと呼気ガスがミキシングされると考えるのが妥当で、患者にはこのミキシングされたガスが送気されることを想定しなければなりません。また、カフなしの気管チューブを使用する新生児では、気管リークが存在するために、吸気からも、呼気からも持続的に鼻や口からガスがリークしています。
自軸的にリークが発生しているということは、アンプリチュード(高い圧力)を作り出すピストンの影響を受けやすくなるため、呼気ガスが患者方向に流れやすくなります。
コンベンショナルな換気モードにおいて、相対湿度が100%に維持されたガスが患者に送気されているのを確認するには、口元コネクターの吸気側で曇りや少量の結露があることを確認することが重要であることを説明しました。 しかし、HFOでは、呼気ガスが再呼吸されることを考える必要があるため、口元コネクターの呼気側に結露があることで分泌物が正常な硬さに維持されていることを想定するには、重要なチェック項目になります。
口元コネクターの吸気側に結露があり、呼気側に結露が付いていなければ、吸気相では加湿されたガス、呼気相では乾燥したガスが患者に送られていることを想定できます。口元コネクターの吸気側が結露しているからと、加温加湿されたガスが患者に送られていると考えてはいけません。
また、口元コネクターの呼気側にはコンベンショナルな換気モードでは結露が付くのが通例です(患者から奪われた水分による結露)が、HFOで呼気側に結露が無いということは、患者の気道や肺胞に送気されているガスの水分が不十分であり、乾燥していることが想定され、分泌物の硬化が起きていると考える必要があります。
最近の加温加湿器と呼吸器回路では、呼気回路にヒーターを挿入し、吸気回路の加温よりも強めに温め、呼気回路に発生する結露を乾燥化させるタイプがあります。呼気回路に結露が貯留しなれば、ウォータートラップも必要なくなりますし、ウィルスやバクテリアの培地にもならず、様々な良い点が挙げられます。
しかし、HFOにおいては、吸気と呼気のガスがミキシングすることや、呼気ガスの再呼吸が発生しやすいガスの流れであるため、呼気回路が乾燥していないことが重要です。呼気回路が乾燥していることによって、吸気回路に結露が貯留していても、患者には呼気の乾燥気体が送気され、分泌物の固形化の原因になっている可能性があります。よって、HFOにおいては、呼気回路を加温して結露を防止する加温加湿器の機能を使用することは推奨しません。
ピストン式HFOは連続的に金属のピストンが動いているため、人工呼吸器本体やピストンの温度が上昇します。近年に開発された人工呼吸器では、以前ほどの温度上昇はなくなりましたが、やはり温度上昇します(通常40℃くらいに維持されます)(ハミングⅡのころは、人工呼吸器本体の外装で目玉焼きができるね。。。と言われるほど高温になっていました)。
温度上昇したピストンから、口元に向かって呼気ガスが逆流するわけですから、呼気ガスの温度は上昇し、呼気回路が乾燥した状態になることがあります。この乾燥気体が患者に送気され、分泌物の固形化の原因になります。(図1は逆流が生じるHFOベースフローとストロークボリュームによる移動量の計算になります)
(図1:HFOベースフローについて)
このような場合には、呼気回路に結露が発生するような加温加湿器の設定をする必要があります。例えば、口元温度を40℃にしたら、加湿チャンバーの出口温度を-3℃ではなく、-2℃、-1℃とし、時に口元温度より高いチャンバー出口温度に設定するケースもあります。
加湿チャンバーの出口温度を上げなければいけない場合は、ストロークボリュームが多く、高いアンプリチュードを設定している場合が多いです。このような設定では、温められた呼気ガスが、口元温度センサーに届き、口元温度センサーを温めてしまうことがあります。口元温度が温められるということは、吸気回路内のヒーターは休んでいいんだよねと勘違いし、吸気回路のヒーターの制御が低下したり、時に停止してしまいます。この結果として、吸気回路の温度は低下し、水分ドロップが起こり、結露が多量に発生してしまいます。
吸気回路の結露が多いということは、加温加湿器によって加温・加湿されたガスの温度が低下し、絶対湿度が低下することになります。この低い絶対湿度の吸気ガスと乾燥した呼気ガスがミキシングされたガスが患者に送気されるため、分泌物が固形化します。
ピストン式のHFOにおいて、吸気回路に結露が貯留し、医療者に嫌われることが多々あります。しかし、結露があるからといって、十分な水分が患者に送気されていると考えるのは危険ですので、注意して下さい。
さらに、低コンプライアンスの肺に対して、高いアンプリチュードにしないと肺が振動しない場合(例えばアンプリチュードが150㎝H2O)には、ピストンから送気されたガスがミキシングされ、加湿チャンバーの出口温度を測定する温度センサーにまで達する場合があります。加温加湿チャンバーの出口の温度センサーが温められてしまうと、加温加湿チャンバーの水を温めなくていいんだよね。。。という状態になり、加湿チャンバーの底にあるヒータプレートが温められなくなり、時に、全く加温されず加湿チャンバーの水が全く減らないなんていう状態になることが稀にあります。加湿チャンバーの水が減らないということは、全く加温・加湿されていないガスが送気されていることになり、呼吸器回路を流れるガスのすべてが乾燥化します。 この様な乾燥したガスが送気されると、患者の肺や気道から水分が奪われ、分泌物が固形化するだけでなく、線毛上皮組織をぼろぼろに壊してしまうことも予測され、肺胞まで壊れるとガス交換能も低下します。
上記のような事例は稀ではありますが、肺胞を壊さないように、高い圧をかけず、肺胞を休ませるLang restの状態を作らなければいけないほどの重症呼吸不全の患者の救命にHFOによる人工呼吸管理が実施されるわけですから、この様な事例は起こりやすいと考えて頂いた方が正解であると考えます。
ピストン式HFO人工呼吸器は、パワーの有するHFOが可能であるため、呼気相にあるピストンの振動によって、ガスのミキシングがどの程度起こっているのか、呼気ガスが逆流してどこまで達しているのか、なぜ、吸気回路の結露が多いのか、どうして呼吸器回路内に結露がないのか、さらには、患者の分泌物の固形化がどの程度であるかなど、幅広い観察が必要で、その原因に対処する必要があります。呼吸器回路内の結露を減らすことが、患者の分泌物を固形化することにつながっているかもしれません。ピストン式HFOの特殊な制御方式から起こる分泌物の固形化の原因を把握することは難しいかと思われますが、結果的には、加温加湿器が休まないように、ヒーターパワーを上げる設定にすることが優先になるでしょう。この様な状況においては、口元温度と加湿チャンバーの出口温度を別々に設定できるHydraltis(ハイドラルティス)9500FM加温加湿器は効果的に使用できるのではと考えます。
次回は、ピストン式ではないHFOにおける加温加湿器の使用方法について説明します。
お楽しみに!
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。