【よくわかる!加温加湿器入門 part20】 パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御に影響する原因⑤
前回は、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器に使用する加温加湿チャンバーの給水方法の違いでも、加温・加湿効率が変わることを説明しました。
今回は、NICUなどで使用される閉鎖型保育器によって、加温加湿器の制御にどのような影響があるのかについて説明していきましょう。成人で使用される呼吸器回路では、口元温度センサーは呼吸器回路の口元に近いデバイス(口元Yコネクターなど)に接続することが基本となります。(図1)
図1:吸気側に温度プローブ(青いコネクタ部分)
ところが、新生児用呼吸器回路は、口元温度センサーの先に30~40㎝の延長チューブが追加されており、この延長チューブは外すことが可能になっています。この延長チューブにはヒーターワイヤーは入っていないため、非加熱回路とも呼ばれています。(図2)
図2:非加熱回路(0.3mの部分)
なぜ新生児用呼吸器回路にこの延長チューブが追加されているのかというと、NICUに入院する新生児の多くは、閉鎖型保育器で管理されるからです。(図3)
体温調節が未熟な低出生体重児は低体温に陥りやすいため、至適環境温度に調節する必要があることが示されています。この至適環境温度は室温より高く、時に37℃以上の器内温度に設定されることも稀ではありません。体温以上の器内温度に設定された閉鎖型保育器に収容され、人工呼吸管理が行われる場合には、加温加湿器の制御に対してこの器内温度が影響することを知っておく必要があります。
どのような影響を受けるのかというと、口元温度センサーを閉鎖型保育器内に入れてしまうと、器内温度によって口元温度センサーが温められてしまいます。
口元温度センサーが温められてしまうと、加温加湿器は吸気回路内に挿入されているヒーターワイヤーを温めなくても良いと勘違いし、ヒーターワイヤーの加温を停止する、もしくは下げてしまうのです。
ヒーターワイヤーの加温が停止してしまうと、閉鎖型保育器内に入るまでの吸気回路は外気によって冷やされ、ここを流れる吸気ガスも同時に冷やされるため、多量の結露が生じることになります。相対湿度は100%ですが、温度低下することで絶対湿度も低下します。いわゆる水分ドロップの状態になります。
絶対湿度が低下した吸気ガスは閉鎖型保育器の中に入ると、器内温度によって温められ、吸気ガスの温度が上昇するとともに相対湿度は低下し、閉鎖型保育器内の吸気回路はカラカラに乾燥してしまうのです。新生児には、高温・低相対湿度の吸気ガスが送気されることになります。そして、気管チューブによって導かれた吸気ガスは、新生児の気管分岐部に吹き付けられます。
新生児が持つ感染防御メカニズムである線毛運動によって気管分岐部まで分泌物が運ばれてきます。しかし、気管分岐部に運ばれた分泌物に高温かつ低相対湿度(低絶対湿度)の吸気ガスが吹き付けられると、分泌物から水分を奪い、分泌物を硬化させてしまい、分泌物を排出困難にする状態になります。分泌物の排出困難は、新生児の呼吸管理に多大な悪影響を及ぼします。
分泌物を硬くするだけでなく、線毛運動の低下(感染防止メカニズムの低下)や線毛が損傷することによる呼吸器感染症の発生(VAP)の原因、線毛や肺胞の損傷を起こすことによる換気不全、この結果として、低出生体重児の肺や気管の成長を妨げるのみならず、肺胞や気管を損傷し慢性肺疾患(CLD)を引き起こすことになります。慢性肺疾患の重症化によって、新生児の命に係わる状態にもなります。
新生児は、炎症による分泌物の増加や粘液分泌腺が過形成を来し易いことや、線毛運動による排出が弱いことなどによって分泌物が多いことから、成人とは異なる吸気ガスの管理をしなければなりません。低体重の赤ちゃんになればなるほど、理想気体(温度:37℃、相対湿度:100%、絶対湿度:44㎎/L)に近い状態の吸気ガスを送気する必要があります。
上記の理由によって、閉鎖型保育器で人工呼吸管理をする場合には、口元温度センサーが閉鎖型保育器の外になるようにするため、口元温度センサーの先に延長チューブ(非加熱回路)をつけることになります。口元温度センサーを閉鎖型保育器の外に設置することよって、加温加湿器の制御は正常になり、閉鎖型保育器に入るまでの吸気ガスは理想気体に近い状態に維持することができます。
この吸気ガスが、閉鎖型保育器内にある吸気回路(延長チューブ)を通過する際には、閉鎖型保育器の器内温度によって変化し、さらに加温されることや、冷やされることも起こってきます。
閉鎖型保育器だからといって、必ずしも温められるわけではありません。閉鎖型保育器に収容された赤ちゃんに日齢が経つとともに、器内温度は下げられていきます。器内温度の低下とともに、延長チューブ内に結露が生じやすくなります。
結露が多量になり、新生児の気管に結露水が流れ込むと気管や肺は溺れた状態になり換気に影響することや、この刺激によってSpO2や血圧、心拍数なども影響を及ぼします。よって、延長チューブに結露が多量に溜まらないように、適宜、その水を除去することや、加温加湿器の設定を調節する必要があります。
また、温度低下を防ぐために「ラップフィルム」を巻くことで、空気層による断熱作用により、結露を減らすことができます。『アルミホイルを巻いています』と聞くこともありますが、アルミホイルは熱伝導率が高いため、周りの温度に影響を受け易いです。よって、保育器の器内温度が低い場合、アルミホイルは呼吸器回路をさらに低下させ、逆に結露を増やすことになるので、この様な場合には「ラップフィルム」が有効です。
加温加湿器の設定を下げたり、「ラップフィルム」を巻いても結露が多量に溜まる場合には、延長チューブを取り除き、口元温度センサーを閉鎖型保育器の中に入れて管理します。
では、「どのくらいの器内温度になったら、口元温度センサーを閉鎖型保育器内に入れればよいのか」という疑問が起こります。加温加湿器の製造企業は34℃以下になったら、口元温度センサーを閉鎖型保育器内に入れましょうと言うことが多いです。
筆者は、長年、この研究を行ってきましたが、以前の閉鎖型保育器(シングルウォールでかつエアカーテン機構のない閉鎖型保育器)では、32℃~33℃程度になったら、口元温度センサーを閉鎖型保育器の外にしましょう(延長チューブをつけましょう)としてきました。
『閉鎖型保育器使用時における人工呼吸器用加温加湿器の設定に関する検討』松井 晃、小池龍平、古山義明、大野 勉、名越 廉、Neonatal Care Vol.8(5):445-461,1995
現在では、閉鎖型保育器はダブルウォールの構造によって輻射熱の影響を受け難くなり、閉鎖型保育器の前後面の内面に沿って空気が流れるエアカーテンの構造によって新生児への対流の影響も低下してきました。また、新生児の体位保持のためのポジショニング材の使用によって、設定される器内温度は以前より低くなってきました。
これらの影響によって、延長チューブの結露も発生しづらくなり、口元温度センサーを閉鎖型保育器内に入れる器内温度は、30℃~31℃程度と現在は説明しています。もちろん、延長チューブの結露の状態によって判断することが一番大事ですので、常に、呼吸器回路の結露状態を監視して、適した加温加湿器の設定を行いましょう。
外気の温度に影響しにくい温度センサーコネクターもありますが、周囲の温度が加温加湿器の設定よりも低い温度であれば効果的に作用します。しかし、周囲が常に温かい状態では、このデバイス自体が温かい環境温度に近づき安定してしまうため効果は低いでしょう。
常に変化する結露の状態に合わせた設定ができる加温加湿器は、口元温度や加温加湿チャンバーの出口温度を任意に可変できる加温加湿器 Hydraltis(ハイドラルティス)9500FMなどの使用が有効です。
次回も、加温加湿器の制御に影響する要因について説明します。
~この記事の執筆者~
松井 晃
臨床工学技士。
小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、
ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。