基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part16 】 パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御に影響する原因①

 前回は、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御について説明しました。

 吸気の理想気体となる44mg/Lの絶対湿度にするため、口元温度を40℃、加温加湿チャンバーの出口温度を37℃になるようにしても、必ずしも理想気体にはならない原因の一つとして、吸気流速があると説明しました。

 加温加湿器の設定を口元温度:40℃、加温加湿チャンバー出口温度:37℃にすると、吸気回路に挿入されたヒーターワイヤーによって3℃分高くなるように吸気ガスを加温しますので、本来であれば吸気回路には結露がつかず、44/Lの水分を吸気に取り込んだまま患者に到達します。

 しかし、温度表示が設定通りであっても、吸気回路に多量の結露を生じる場合もあります。吸気回路の結露、いわゆる吸気回路内における水分ドロップは、絶対湿度の低下を起こし、分泌物の硬化に繋がります。 加温加湿器は様々な影響によって理想的な制御ができず、あくまでも見かけ上の制御になっています。

 今回は、加温加湿器が見かけ上の制御になっている原因、制御に影響する原因について説明していきましょう。

 もう一度、吸気流速について説明します。

 加温加湿チャンバーの水面を通過する際に吸気ガスが水分と温度を取り込むパスオーバー方式。水面を通過する吸気ガスのスピードが遅いほど、水分と温度を取り込む時間が長くなるため、加温・加湿効率が高くなり、加温加湿チャンバーの水温は低くても良くなります。逆に吸気ガスの通過するスピードが速くなるほど、水分が温度を取り込む時間が短くなるため、加温・加湿効率が低くなります。吸気流速が速いほど温度を取り込む時間がないため、加温加湿チャンバーの水温が高くないと追従できませんので、加温加湿器のヒータープレートの温度を高くして、水温を上昇させるように自動的に制御します。

 一定流量(定常流)を590L/分で変化させたときの、ヒーターワイヤーの先の温度、相対湿度、絶対湿度がどうなるかの実験をしました。 加温加湿器はDEAS Hydraltis9500FM、呼吸器回路はDEAFLUX403(成人用)を使用しました。 加温加湿器の設定は、口元温度;40℃、加温加湿器チャンバー出口温度:37℃(口元温度との差は-3℃)試験環境は。室温:26.3℃、相対湿度:61.8%、使用ガスはコンプレッサーにて供給し、その空気は温度:26℃、相対湿度:5%であった。

  5L/分では、相対湿度は98.8%ですが、温度が34.3℃と設定の温度に達しないため、絶対湿度は37.5/Lとなりました。 本来パスオーバー方式の加温加湿器は、低流量における加温加湿効率は高くなります。しかし、吸気流速が遅いために吸気回路は室温によって冷えやすくなります。吸気回路が環境温度の影響を受けやすいため、口元温度は温度低下を起こします。よって、相対湿度はほぼ100%ですが、温度低下によって吸気回路内における水分ドロップが起こり、結果的に絶対湿度も下がりました。

  

 10L/分~40L/分では、温度:35.5℃~36.4℃、相対湿度:97.1%~99.4%で調節されたため、絶対湿度は40.3/L42/Lとなりました。しかし、50L/分になると温度は36.2℃に制御されますが、相対湿度は91.8%ととなり、絶対湿度は38.5/Lと低下傾向がみられるようになります。

  60L/分では、温度:36.1℃、相対湿度は84%、絶対湿度:35.4/L

 70L/分では、温度:36.1℃、相対湿度は75%、絶対湿度:31.9/Lと急激に絶対湿度が低下していることが分かります。

 高流量ガスに対して、パスオーバー方式の加温加湿器の加温・加湿効率は低下するということを理解できたでしょうか。 今回使用した呼吸器回路は成人用(内径22㎜)であり、低流量であるほど吸気回路内の流速は遅くなります。

 小児用呼吸器回路(内径15㎜)や新生児用呼吸器回路(内径10㎜程度)では、同じ吸気流量であっても、内径が細くなるほど吸気流速は早くなるので、低流量での温度低下は少なくなり、成人用よりも加温・加湿効率が高くなることが予想されます。

  呼吸器回路の素材や形状、ヒーターワイヤーの挿入方法、吸気回路の保温カバーの有無などの違いによっても加温・加湿効率に影響します。

 次回は、加温加湿器の加温・加湿効率が呼吸器回路の違いによってどう影響するかについて説明します。

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。

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