【よくわかる!加温加湿器入門 part17】 パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御に影響する原因②
前回は、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御に影響する「吸気ガスの流量」について説明しました。
吸気ガスの流量が多くなると加湿効果が低下するというパスオーバー方式の欠点を示しました。
患者さんに吸気ガスが届くまでに、吸気回路を吸気ガスが通過します。 吸気回路を吸気ガスが通過する際に、吸気回路は外気温度(室温)の影響を受けて冷やされてしまい結露が発生することで、温度低下と共に相対湿度は100%を維持するものの、絶対湿度が低下してしまいます。 この温度低下に対応して作動するのが、吸気回路に内蔵されたヒーターワイヤー(ホースヒーター)です。 このヒーターワイヤーで吸気ガスを加温することで、吸気回路に発生する結露を防ぐことや、口元が設定温度になるように制御されます。
加温加湿器の口元温度の設定を40℃、加温加湿チャンバー出口温度を37℃(口元温度に対して-3℃)とすると、理想気体である44mg/Lの絶対湿度で患者に送気することができるとされています。 しかし、様々な影響で、理想気体にできず、吸気回路内に結露が発生したり、水が貯留することもあります。
加温加湿器の温度表示は設定通りなのに、理想気体になっていないのです。 『加温加湿器は見かけ上の制御しかできていない』と私はいつも伝えています。
今回の『加温加湿器は見かけ上の制御しかできていない』原因の一つである、吸気回路にあるヒーターワイヤーの挿入方式について説明していきましょう。 以前は、リユーザブルの呼吸器回路を使用していました。よって、ヒーターワイヤーも再使用していました(現在もありますが)。 吸気回路とヒーターワイヤーは別々のデバイスであり、消毒、再滅菌の際に、専用のワイヤーを使用して、ヒーターワイヤーを吸気回路の中に通していました。吸気回路の長さが130㎝に対し、ヒーターワイヤーは120㎝ぐらいでした。(図1)
図1:初期のヒータワイヤー
このタイプは、ヒーターワイヤーがある部分しか温めることができません。よって、ヒーターワイヤーのない部分を通過する吸気ガスを完全に温めることができず、相対湿度が上昇し、曇りが発生した後に結露になっていきます。 この結露は、吸気回路が垂れ下がる一番低い部分に溜まっていくため、多量の水となって、吸気ガスが通過するに合わせて、ぼこぼこと動くのです(写真1)。
写真1:水が溜まる
呼吸器回路がディスポーザブル化されていく中で、吸気回路の内面に沿って螺旋状にヒーターワイヤーの入ったタイプが販売されるようになりました(図2)。
図2:吸気回路の内面に沿って螺旋上に挿入されたヒーターワイヤー
このタイプは、吸気回路が冷やされた直後にヒーターワイヤーで加温するので、環境(室温)による影響が少なくなりました。しかしながら、吸気回路が冷やされた後に温めるため、完全に吸気ガスと室温を断熱できる機構ではありませんでした。 このタイプの呼吸器回路は、蛇腹のタイプであり、呼吸器回路は柔らかく、伸び縮みし易い薄い材質でありました。 蛇腹は外気と触れる面積は多いために、冷やされ易い原因になっていたことも考えらえます。
吸気ガスが通過する外側を温めるため、冷やされた吸気ガスを温めるという機構になり、加温効率は良くなりましたが、十分な効果はなく、結露が発生し、理想気体にはなりませんでした。 以前より良くはなりましたがこのような呼吸器回路では、結露防止のために、吸気回路をビニールでカバーするタイプも発売されています。
吸気回路をビニールでカバーすると、空気の層が作られるため、断熱作用を上げることができます(空気は熱伝導率が少ない。二重サッシの原理) しかし、ビニールのカバーが薄いので、完全に断熱することはできず、結露が発生し、理想気体にはなりませんでした。 その後、ヒーターワイヤーが呼吸器回路の強度を保つために外側を巻いている部分にヒーターが内蔵されている呼吸器回路が作られるようになりました(写真2)
写真2:チューブリンフォース部にヒーター内蔵
吸気ガスと外気の間にヒーターがあるため、断熱の効果は高く、冷やされる前に温めるという効果のため、理想気体を作りやすくなり、結露の発生も少なくなりました。よって、加温加湿器が指示通りに近い制御ができようになりました。(写真3)
写真3:呼吸器回路の温度差(DEAS社提供)
(左:ヒーターワイヤーが螺旋状に挿入されたもの 右:ヒーターワイヤーがチューブリンフォース内に内蔵されたもの)
このタイプの呼吸器回路を最初に作ったのはダールという会社だと思います。この呼吸器回路について実験を行い、学会発表し、論文にしていますので、参考にして下さい。
☆吸気回路加温式呼吸器回路の加湿性能の検討 松井 晃、小池龍平、古山義明、中村 譲、大野 勉(未熟児新生児科)医科器械学 Vol.73(3):109-113,2003
このタイプは、加温加湿器の指示通りに作動するので、結露が発生しにくいという結果でありましたが、以前も書きましたが、結露しないことは良いことばかりではありません。
結露がないということは、相対湿度が100%に達していないことになり、高温で不十分な相対湿度であると、患者の気道から水分を奪いやすくなり、分泌物の乾燥化を進行させることになります。口元部分に近い吸気回路に薄っすらと曇る程度に加温加湿器の設定を調節することが大切です。
新しく(株)メトランより発売されたDeaflux(デアフラックス)呼吸回路の吸気回路は、呼吸器回路の外側を加温するタイプであり、室温の影響を受けにくい構造になっているため、結露の発生を減らすことができます。
また、新しく(株)メトランより発売された加温加湿器 Hydraltis(ハイドラルティス)9500FMは、口元温度と加温加湿チャンバーの出口温度を0.5℃刻みで設定できるため、人工呼吸器の設定や環境に合わせて調節することで、口元部分に近い吸気回路に薄っすらと曇る程度に微調整しやすくなります。
次回も、加温加湿器の制御に影響する要因について説明します。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。