基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part34】結露の影響を考えてみよう② 感染リスクを考える

結露についての2回目です。

 人工呼吸器回路に貯留する結露は、感染のリスクがあるため、できるだけ結露を減らすための改良が加えられてきました。 加温加湿器本体としては、フィッシャー&パイケル社のMR-850から、加湿チャンバーの出口温度が37℃にするのに対し、口元温度の設定を加湿チャンバー出口温度より3℃高くする設定が推奨されました。 口元温度を3℃高くすることで、吸気回路内の相対湿度を85%に下げることで、結露の発生を抑えようとしました。また、呼気回路にヒーターワイヤーを挿入することで、呼気が外気によって冷やされることで発生する結露を乾燥化させるという改良も行われました。加温加湿器には呼気回路を温められるように改良が行われました。これによってウォータートラップの必要性が無くなりました。 様々な改良は、理想的な吸気ガスを患者に届けるという目的と共に、呼吸器回路内に発生する結露が、ウイルスやバクテリアの増殖によって起こる感染リスクを低下させるという目的もあります。

 と、前置きが長くなりましたが、今回は呼吸器回路に貯留する結露と感染リスクの関係性について考えていきたいと思います。 「NICUMRSAが蔓延し、調査したところ、加温加湿器の加湿チャンバーの水からMRSAが培養されたことから、MRSAの蔓延の原因は加温加湿器にある」という学会発表や講演を聞いたことがあります。

 これって、本当なのでしょうか。 加温加湿器の加湿チャンバーから発生する水蒸気はH2Oの分子です。この分子の大きさは、0.0001ミクロンです。 では、ウイルスやバクテリアの大きさはどのくらいでしょう。

 ウイルスの大きさは0.017~0.3ミクロン、バクテリアは0.2~10ミクロンです。

 H2Oの分子は、ウイルスやバクテリアよりとても小さいことが分かります。 加温加湿チャンバーの水の中にウイルスやバクテリアが入り込み、増殖したとしても、加湿チャンバーの水が水蒸気化しても、ウイルスやバクテリアを運ぶことはできないのです。 加温加湿器がMRSAの蔓延の原因だとする報告に、もっと不思議なことがあります。これは、加湿チャンバーの水から培養されたMRSAはどこから発生したのでしょうか。

 加湿チャンバーに最初からMRSAがいたのでしょうか。 確かに、フィッシャー&パイケル社の加湿チャンバーは滅菌されていませんし、袋にも入っていません。 他社の加湿チャンバーは、袋に入って滅菌されているものが多いとは思いますが。 なぜ、袋にも入らず、滅菌もされていないのでしょうか。

 フィッシャー&パイケル社の加湿チャンバーはクリーンルームで作られ、箱にパッケージされ、日本に運ばれてきます。この製造から配送の段階で、MRSAが混入したのでしょうか。 加湿チャンバーに使用前からMRSAが混入していたということであれば、もっと昔から他のウイルスやバクテリアによる感染が問題になっていると考えられますし、加湿チャンバーのパッケージ方法や滅菌という考え方も進んでいたと考えられます。 なぜ、加湿チャンバーが滅菌されていないのか。ということですが、呼吸器系に使用されるデバイスのクリーンレベルは、セミクリティカルであり、新品であれば滅菌までの必要性はありません。

◆セミクリティカルの決まり

 ・粘膜または創傷のある皮膚と接触する医療器具

 ・損傷のない正常粘膜は通常、一般的な細菌芽胞には抵抗性があるが、結核菌やウイルスなど

  その他の微生物に対しては感受性が高い

 → 洗浄 + 高水準消毒 または 中水準消毒

 40年前から販売されていたフィッシャー&パイケル社のディスポーザブルの新生児用呼吸器回路は薄っぺらなビニール袋に入っていましたが、そのビニール袋には穴が開けてありました。もちろん、クリーンルームでパッケージされています。

 なぜ、あえて穴を開けていたのかですが、私の記憶では、飛行機で運ばれる際に、飛行機内の気圧が0.8気圧に低下するため、穴が開いていないとビニール袋が2割ほど膨張します。この膨張によってビニール袋が破けないためであったと記憶しています。(違っていたらごめんなさい)

 このようなパッケージでも、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可が取れていたので、感染リスクはないと証明されていたと考えられます。

 単純に考えて、加湿チャンバーに最初からMRSAがいたという可能性は非常に低いのです。

 では、そのMRSAはどこから加湿チャンバーに入ったの?と考えると、人(医療従事者)を介してMRSAが呼吸器回路内に入ったと考えるのが正しいでしょう。

  • 呼吸器回路を組み立てた時
  • 呼吸器回路のウォータートラップに溜まった水を捨てる時
  • 自動給水の瓶針を注射用水に接続する時
  • 気管吸引をするなど、呼吸器回路を患者から外した時
  • 呼吸器回路にテスト肺を繋げた時

 人が呼吸器回路に触る行為にはもっとたくさんのことがあると思いますが、呼吸器回路を触る際に、しっかりと手指消毒をしていたのであろうかと疑問を考えるのである。患者に触れる時は、しっかりと手指消毒をしていると考えますが、医療機器や医療デバイスに触れる際に手指消毒をしているかと考えると、疎かになっていたのではと考えられるのです。

 患者に触れなくても、患者に触れている医療機器・医療デバイスに触れる際には標準予防策(スタンダードプリコーション)が重要であるということになります。

 MRSAが付着した手や医療デバイスが呼吸器回路に触れたりすることによって、呼吸器回路にMRSAが混入します。呼吸器回路に入ったMRSAは、呼吸器回路に貯留した結露に付着し、37℃で相対湿度が100%に近い増殖しやすい環境によって、倍増していくことになります。ある部分の結露で増殖したMRSAは、結露を伝わって、呼吸器回路内を移動していきます。そして、呼吸器回路の口元から患者にMRSAが入り込み感染が起こります。また、結露を伝わって移動するMRSAが加湿チャンバーの水の中に入れば、その水の中で増殖を続けます。加湿チャンバーの水温は60℃~70℃ぐらいと以前に説明したと思いますが、MRSAが死滅する温度は80℃なので、加湿チャンバーの水温ではMRSAは死滅することなく、増殖を続けることが理解できます。加湿チャンバーの水を培養すれば、MRSAが確認できますし、それ以外の多くの細菌が培養されることは容易に考えます。

 CDCのガイドラインでは、呼吸器回路の交換は、肉眼的に汚れが見られなければ交換しないとしています。 呼吸器回路の交換の回数が増えれば増えるほど、人を介する機会が多くなり、感染リスクが増加するということです。 呼吸器回路を交換すると、キレイな呼吸器回路になるという考えは、気分的なことであり、正しい方法で呼吸器回路を交換しなければ感染リスクが増大するということを知っておきましょう。

 今回は、呼吸器回路内に貯留した結露がウイルスやバクテリアの温床になり、結露を伝わって加湿チャンバーの水に入るとウイルスやバクテリアが増殖すると説明しました。しかし、加湿チャンバーの水が水蒸気になっても、このH2Oの分子はウイルスやバクテリアより非常に小さいため、増殖したウイルスやバクテリアを運ぶエネルギーを持っていないということです。

 呼吸管理をしている患者さんに触れる時も、しっかりと標準予防策を徹底しましょう。

次回も、結露と感染リスクの関連について説明します。

 

 

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。

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