【よくわかる!加温加湿器入門 part14 】 加温加湿器の基本はパスオーバー方式
前回より加温加湿器をテーマに説明を始めました。
現在、日本で(世界中で?)使用されている加温加湿器の主流はパスオーバー方式の加温加湿器であると言っても過言ではありません。
では、パスオーバー方式の加温加湿器とはどんなものかを今回は説明していきます(図1)。
図1 ヒーターワイヤーを使用しない加温加湿器
パスオーバー方式の加温加湿器とは、加温加湿チャンバーの水をヒータープレートによって温め、発生した水蒸気が漂う水面を人工呼吸器の吸気ガスが通過することで、吸気ガスを加温・加湿する方式で、加温・加湿された吸気ガスが患者に導かれます。水面の上を通過することからパスオーバー方式と呼ばれています。
加温加湿器に、水を入れる加温加湿チャンバーを装着します。加温加湿器には加温加湿チャンバーの底を温めるためのヒータープレートがあります。加温加湿チャンバーの底をヒータープレートによって熱することで水温を上昇させます。ヒータープレートの温度が100℃を超える機種もあります。加温加湿チャンバーの底はアルミニウムの金属でできており、ヒータープレートからの熱が速やかに熱伝導されます。加温加湿チャンバーとヒータープレートを密着させるために、ヒータープレートを支える下の部分がバネ状になっています。このため、加温加湿チャンバーを加温加湿器に装着する際には、加温加湿チャンバーをヒータープレートに下に押し付けながらスライドさせ固定します。よって、加温加湿チャンバーの底のアルミニウムが変形や、ヒータープレートに傷などがあると熱伝導が悪くなり、加温・加湿効率に支障を来すことがあります。
パスオーバー方式の加温加湿器は大きく分けて3つに分類されます。
一番シンプルなパスオーバー方式の加温加湿器は、ヒータープレートの出力を設定するだけの加温加湿器です。ヒーター出力は10段階程度で可変できます。吸気ガスの温度を測定する機能はありませんので、温度がデジタルで表示されることはありません。また、加温加湿チャンバーの水面を通過した吸気ガスは、吸気回路を通過して患者に導かれます。しかし、吸気回路は室温によって冷やされるため、吸気ガスも一緒に低下します。せっかく加温加湿チャンバーを通過する際に水分を取り込んだ高湿度の吸気ガスが冷やされますので、吸気回路内に多量の結露が発生することになります。よって、患者に届く相対湿度は100%になりますが、水分ドロップを起こし、十分な水分が患者に送られないことになります。結露水の除去も頻繁に行わなければなりません。したがって、結露が多量に発生しないような設定で使用せざるを得ません。このタイプの加温加湿器は、基本的にはNPPV(非侵襲的陽圧換気法)に使用するのが良いでしょう。
しかしながら、気管切開を行って在宅医療を行っている小児の患者でも未だにこのタイプが使用され、不十分な加湿効果によって分泌物が硬化し、困っている患者や家族が多くいます。この様な患者では、設定を高くすると共に、吸気回路が冷やされないように吸気回路を保温する様々な方法が行われているのが現実です(図2)。吸気回路の保温によっても十分な加湿効果が得られない場合には吸入療法や排痰補助装置が併用されているのが現実です。
図2 保温カバーを巻いて結露防止しているヒーターワイヤーを使用しない加温加湿器
パスオーバー方式の加温加湿器の2つ目として、3通りの加温・加湿パターンが設定されており、その条件になるようにヒーターを調節するタイプがあります(図3)。
このタイプの加温加湿器では、温度を表示する機能はありません。このタイプには、吸気回路が室温によって冷やされ、結露が発生するのを減らすために、吸気回路を温める機能が備わっています。吸気回路には、ヒーターワイヤーやホースヒーターと呼ばれるヒーターが挿入されており、結露の発生を抑えるように制御されます。
通常であれば、呼気回路も室温によって冷やされ結露が発生します。この結露対策として、ウォータートラップと呼ばれる結露水を貯留させるデバイスを呼気回路へ挿入が必要でした。ウォータートラップ(図4)は、水を捨てる際に人工呼吸器の動作に影響しない構造(リークを発生させない構造)になっています。
図4 ウォータートラップ
しかし、2つ目のタイプの加温加湿器には、呼気回路にもヒーターワイヤーを挿入して、このヒーターワイヤーを温めて、呼気回路の結露を発生させないような機構を有しているタイプもあります。(呼気回路にもヒーターワイヤーが挿入された呼吸器回路が必要です)
吸気回路と呼気回路の両方を温める方式をデュアルヒーターと呼びます。
呼吸器回路内に結露を作らないという発想で作られた加温加湿器であり、基本的にはNPPVに使用されることが推奨されます。気管挿管された患者や気管切開された患者にも使用されていますが、吸入ガスとしての理想的な温度:37℃、相対湿度:100%、絶対湿度:44㎎よりも低い条件となりやすいため、加温・加湿効果としては不十分な場合もあります。気管挿管された患者や気管切開された患者への使用の場合には、吸気回路にうっすらと結露が発生する条件にすることが大事です。
呼吸器回路内に結露がないことが良いと思われる医療者も多いですが、結露がないことは決して良いことはありません。次回以降にこの点については説明したいと思います。
図5 温度設定が3パターンで可変できるパスオーバー方式&デュアルヒータータイプの加温加湿器
パスオーバー方式の加温加湿器の3つ目は、温度設定のできる加温加湿器です。
温度の測定と考えると患者に送気される直前の温度と考えますが、口元だけでなく、加温加湿器チャンバーの出口の温度も測定して、ヒータープレートとヒーターワイヤーの出力を制御します(図5)。
口元温度と加温加湿チャンバー出口の2カ所の温度を測定して制御するため、デュアルサーボ方式の加温加湿器と呼ばれます。『サーボ』とは、設定された数値等に対して自動的に制御するという意味です。
図5の呼気回路にはヒーターが挿入されていませんが、呼気回路にヒーターが挿入されるタイプもあります(図6)。
図6 パスオーバー方式&デュアルサーボ方式の加温加湿器
今回はパスオーバー方式の加温加湿器には3種類のタイプがあることを説明しました。
次回は、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式の加温加湿器の制御について説明します。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。