基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part21】 パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御に影響する原因⑥

 前回は、閉鎖型保育器に収容された低出生体重児において、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器をどのように使用したらよいか、呼吸器回路の口元にある非加熱チューブ(延長チューブ)を使う場合と取り外して口元温度センサーを閉鎖型保育器に入れる器内温度について説明しました。

 今回も、NICUに入院する新生児における呼吸管理での加温・加湿に影響する原因や、その対処方法について説明します。

   以前に、空調や室温、太陽光による輻射熱の影響が加温加湿器の制御に影響することを書きました。 今回は、NICUなどに収容された患者の人工呼吸管理で起こりやすい、輻射熱の影響や空気の温度による影響に対して、どう対処したらよいかについて説明します。

 新生児は、出生後に黄疸という血中ビリルビン濃度が上がることが多くあります。この治療は、光線治療器という光を照射して行います。光線治療器は、以前は蛍光灯の内側にフィルターをつけて、ブルーホワイトの光が出るようにした装置が多く使用されていました。蛍光灯の光が熱源となり輻射熱が、呼吸器回路の口元のチューブや口元温度センサーを温めてしまいます。

 口元の非加熱チューブに光線治療器の光が当たると、温度上昇によって相対湿度が低下し、絶対湿度が理想的な数値(44/L)であっても乾燥気体となり、分泌物が硬化するとともに、排痰ができなくなります。また、口元温度センサーが光線治療器の輻射熱によって温められると、温度が上昇していると判断し、吸気回路のヒーターワイヤーが休んでしまいます。ヒーターワイヤーが休むと、吸気回路内が結露し、水分ドロップが起こります。

 水分ドロップが起こった吸気ガスは、口元部分で光線治療器の輻射熱によって温められ、前記された状況よりも更に高温・低加湿のガスが、患者に送られることになり、分泌物の排出を悪くします。 この様な場合には、口元温度センサーや非加熱チューブ全体にアルミホイルを被せ、輻射熱を反射の原理によって跳ね返し、呼吸器回路や口元温度センサーへの影響を減らします。

アルミホイルで回路を巻いてしまうのは禁忌です。あくまでも被せるだけです。

       (写真1)

 アルミホイルは熱伝導率が高いため、口元回路や温度センサーを光線治療器によって得た熱を取り込み、さらに温めてしまうという現象が起こります。結果的に、更なる高温・低湿度の吸気ガスを作ってしまうため、アルミホイルを巻くのは正しい方法ではありません。温度センサーへの輻射熱の影響を減らすことで、ヒーターワイヤーが正常に作動し、吸気回路内に結露が生じるのを減らしてくれます。また、非加熱回路が温められなくなるため、温度上昇が低下し、乾燥化を防ぎ、相対湿度の維持が可能になります。

 現在の光線治療器はLEDに代わっているため、輻射熱による影響は少なくなりました。しかしながら、稀にLEDの光線治療器の影響で低湿度の吸気ガスとなり、分泌物の排出を困難にする場合が起こるため、この様な場合には、アルミホイルを使い、輻射熱を反射させて呼吸器回路への影響を減らしてあげましょう。

 『ラップフィルムを巻いて、輻射熱の影響を防いでいます。』という声が聞こえてきたり、『ラップフィルムを巻いて、輻射熱の影響を防ぐので良いですよね?』と質問されたりしますが、ラップフィルムでは光線治療器の輻射熱を反射することができません。

 何故なら、ラップフィルムによってできる空気層が断熱材として作用するため(空気は熱伝導率が低いため断熱作用になります。例えばダウンジャケットが温かいのは、体と外気の間に空気層が作られるため、外気の影響を減らすことや、自分の体温を逃げにくくする作用があるためです)、口元チューブは更に温められ、乾燥化するので、正しい方法ではありません。

 開放型保育器は、新生児を輻射熱によって温め、体温を維持する装置になりますが、開放型保育器の輻射熱も口元の呼吸器回路や口元温度センサーを温めてしまい、吸気ガスの乾燥化(相対湿度の低下)や絶対湿度の低下が起こります。この様な場合には、光線治療器と同様の方法で(アルミホイル)輻射熱を反射させます。温度センサーが温められなくなれば、加温加湿器が正常に作用し(ヒーターワイヤーが正常に働く)、水分ドロップが起こり難くなります。また、口元チューブが温められなくなるため、相対湿度の低下も起こり難くなります。

 閉鎖型保育器は必ずしも温めている状況だけではありません(患者の状態によって、ヒーター温度の設定を低くして管理されることも多いです)。室内には対流する空気が流れているため、空気の温度によって口元チューブが冷やされて、結露が発生し易くなります(特に、非加熱チューブを使用しているとき)。

 この様な場合には、ラップフィルムで口元チューブを巻いて、空気の断熱作用によって温度低下を防ぎ、水分ドロップを減らし、絶対湿度の低下を防ぎましょう。(写真2)

       (写真2)

 アルミホイルやラップフィルムを使用した、輻射熱の影響を減らすことや外気の温度の影響を減らすことについて、今回は説明しました。この様な対処方法に合わせ、加温加湿器の口元温度や加湿チャンバーの出口温度を調整することで、患者に対して理想的な吸気ガスを送気することも必要です。

 メトラン社が扱うDeaflux(デアフラックス)呼吸回路の吸気回路は、呼吸器回路の外側を加温するタイプであるため、室温の影響を受けにくい構造になっています。常に変化する結露の状態に合わせた設定ができる加温加湿器は、口元温度や加温加湿チャンバーの出口温度を任意に0.5℃刻みで可変できる加温加湿器 Hydraltis(ハイドラルティス)9500FMなどの使用も有効的に調整できます。

次回もお楽しみに。

 

 

 

 

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、
ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。

>>KIDS CE ADVISORYのHPはこちら

 

 

 

 

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