【よくわかる!加温加湿器入門 part18 】 パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御に影響する原因③
前回は、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器で制御される吸気回路のヒーター(ヒーターワイヤー・ホースヒーター)の役割について説明しました。
ヒーターワイヤーの種類によって、患者に届く吸気ガスの相対湿度・絶対湿度に違いが起こることを説明しました。加温加湿器がいかに高性能であっても、患者に導かれる吸気回路の間で、温度や相対湿度、絶対湿度が変化するのです。いかに理想に近い吸気ガスを患者に送気することの難しさについて理解できたのではと思います。
今回も、加温加湿器の制御に影響について説明していきましょう。
吸気流量の違いで、患者に届く吸気ガスの相対湿度や絶対湿度が変わることを説明しましたが、人工呼吸器によって吸気ガスの送気制御が異なります。高流量ガスが流れるのは一回換気量の多い成人になると考えられます。500mlの一回換気量は、吸気流量:30L/minを1秒間で送気することで調節できます。これは量規定換気(VCV)で設定された場合で、この吸気フローは矩形波(図1・矢印)になります。しかし、圧規定換気(PCV)の吸気フローの波形は三角波形(図2・矢印)であり、VCVよりも初速が多くなります。
この初速は60L/minを超えることもあり、加温加湿器の加温・加湿能力が追従しなくなることが考えられます。呼気時(PEEPを維持している時間)に流れるガス流量はバイアスフローやベースフローなどと呼ばれます。この呼気時に流れるガスは、成人用人工呼吸器では低流量であることが多いのです。患者に自発呼吸があれば、PEEPを維持するようにディマンドフローとしてガスが追加して流れます。圧支持換気(PSV)においても、設定されたサポート圧になるまでディマンドフローが流れます。
基本的に、自発呼吸がなければ呼気相に流れるガスは少ないのです。よって、呼気相では、加温加湿チャンバーに滞留しているガスがあり、そのガスは温度と水蒸気を取り込みやすい状態になります。しっかりと加温・加湿された吸気ガスが患者へ送気される際に、加温加湿チャンバーに滞留していたガスが押し出される形となり、60L/minを超える吸気ガスであっても、理想に近い吸気ガスを送れるようになるのです。
では、もし、連続的に患者にガスが送気されていたとすると、どうなるでしょう。パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の欠点は高流量ガスに対して加温加湿効率が低下することですので、連続的に高流量が流れれば、理想的な吸気ガスより低い絶対湿度で送気されることになります。
高流量ガスが送気される呼吸療法にはNPPVがあります。NPPVでは患者のマスクもしくはマスクの近位に呼気ポートという穴が開いています。 この呼気ポートからガスが漏れる以上のガスを送気することで吸気圧の制御が行われます。 呼気相もEPAP(呼気気道陽圧)として一定圧を保つように制御されますので、呼気相でもガスは患者側に流れ続けます。 よって、NPPVにおける加温加湿効率は低い状態になることが考えられます。 しかし、NPPVでは人が持つ高性能な加温・加湿機能である鼻や上気道を通過するため、温度設定は皮膚温で良いとされ、その温度は34℃程度です。
34℃よりも温度を上げることもありますが、不十分な加温・加湿状態の吸気ガスであっても、人の持つ加温・加湿機能が補助してくれることになります。 これは、ハイフローセラピーの場合でも同様です。 成人における急性期の呼吸管理においては、ハイフローセラピーの流量を70L/min近くまで上げることもあります。
ハイフローセラピーの流量は常に一定流量であるため、NPPVより低加湿の状態になりやすいことになります。よって、性能の良い加温加湿器を選択することや、温度低下が起こりにくい呼吸器回路を選択することも重要になります。
加温加湿器の温度表示が設定温度と同じになっていても、実際には不十分な吸気ガスになっていることもあります。よって、吸気回路の曇りや結露、患者の分泌物の状態や喀痰状況を鑑みて、加温加湿器の設定を変える必要があります。
加温・加湿が不十分な場合には口元温度を上げること(一緒に加温加湿チャンバーの温度も上がります)や、加温加湿チャンバーの出口温度を上げる(吸気回路内を結露で少し曇らせる)などの微調整が必要であり、口元温度や加温加湿チャンバーの出口温度を任意に可変できる加温加湿器 Hydraltis(ハイドラルティス)9500FMは有効に使用できることが予測できます。
この加温加湿器の設定は、一度セットしてしまえば終わりではありません。患者の状態によって変更することはもちろん、人工呼吸器が使用される環境によっても変わります。室内の温度調節をしている空調の風があたる場所とあたらない場所では、加温・加湿の状態が変わります。また、日中と夜間でも変わります。更に、窓際であれば、冬の寒い外気温で冷やされた窓による輻射熱よっても呼吸器回路は冷やされます。逆に、夏の日差しが呼吸器回路に影響することもあり、常に患者の状態に合わせて加温加湿器の設定を変更することが理想の使い方になります。なかなか難しいことですが、『分泌物管理なくして呼吸管理無し!』ですので、是非、加温加湿器を使いこなして欲しいと思います。
次回も、加温加湿器の制御に影響する要因について説明します。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、
ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。