【よくわかる!加温加湿器入門 part19】 パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御に影響する原因④
前回は、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御が、換気方法(成人・NPPV・ハイフローセラピー)の違いや環境による影響について説明しました。加温加湿器の温度が設定通りになっていても、患者に届く吸気ガスの加温加湿状態は様々な要因を受けて、設定通りにはなっておらず、見かけ上の制御しかされていないと説明しました。
今回も、加温加湿器の制御の影響について説明していきましょう。
呼吸器回路を構成するデバイスの一つとして、加温加湿チャンバーがあります。この「加温加湿チャンバーの違いによって加温加湿状態が変わるのか」について説明していきます。現在、多くの施設で使用されている自動給水型の加温加湿チャンバーではありますが、自動給水型と手動給水型の違いについて考えてみましょう。
手動給水型加温加湿チャンバーは、水の量が減った時には、加温加湿チャンバーの入口側の回路を外して、滅菌蒸留水を手動で追加する方式の加温加湿チャンバーです。筆者が働き始めたときの加温加湿チャンバーは、リユーザブルで滅菌して再使用していました。加温加湿チャンバーは底の部分と上の部分が外れ、中に金属の円筒がありました。この円筒に濾紙を巻いて使用していたのです(まだリユーザブルの加温加湿チャンバーは市販されているようです)。
医薬品医療機器総合機構PMDA医療安全情報No11 2009年8月から引用 |
フィッシャー&パイケル®社が自動給水型加温加湿チャンバーを売り出したとき、「自動給水によって加温・加湿効率が良くなりました」と説明していました。筆者は、この説明に疑問を持ちました。なぜかと言えば、吸気ガスは加温加湿チャンバーの水面を通過して加温・加湿されるわけですから、自動給水の制御をするために水面の真ん中に挿入された浮子(“うきこ”と筆者は読んでいましたが、正式には“うき”だそうです)、によって吸気ガスと接触する水面の面積が少なくなったからで、単純に考えれば「自動給水型加温加湿チャンバーは手動給水型加温加湿チャンバーより加温加湿効率が低下する」ことになります。
筆者は実験的に評価し、自動給水型加温加湿チャンバーは手動給水型加温加湿チャンバーより加温・加湿効率は低下していました。フィッシャー&パイケル®社に私の理論を説明すると、即、自動給水型加温加湿チャンバーの方が加温加湿効率が悪いということを認めました。自動給水型加温加湿チャンバーの加湿効率が高いと説明した理由は、手動給水型加温加湿チャンバーでは、水が少なくなるたびに冷たい滅菌蒸留水を入れると、吸気ガスの温度低下が起こり絶対湿度が低下します。また、水面の高さが高いと(滅菌蒸留水の量が多い)加温・加湿効率が低下し、水が減っていき、水面の高さが低下すると加温加湿効率は上昇するという変化が起こり、常に、加温・加湿状態は安定しないと説明されました。
自動給水型加温加湿チャンバーを使用することで水面の高さを一定に保つことができ、常に安定した加温・加湿状態が保てることから、自動給水型加温加湿チャンバーの方が加温・加湿効率が高いとしたとのことでした。自動給水型は滅菌蒸留水の水がなくなるまでは、空焚きが起こらないため、安全性も向上するという説明でした。しかし、実際には、自動給水型加温加湿チャンバーを使用することによって、空焚きのトラブル事例が増加したのです。人は楽なものを使いはじめると、その楽さに順応し、滅菌蒸留水のボトルの量を常に確認しようという意識が低下し、確認する行為が減ってしまうのです。
こまめに追加給水をしなければならない手動給水型加温加湿チャンバーを使用していた時の方が、常に水の量をチェックするため空焚きは少なかったのです。以前、筆者が働いていた施設では、自動給水型加温加湿チャンバーに変更したとたんに、あまりにも空焚きをすることが多発したので、手動給水型加温チャンバーに戻そうという状況にもなりました。医療安全の対策として、注意喚起や管理法、指導を行うことで、空焚きは減り、自動給水型加温加湿チャンバーの継続的使用が容認されたのです。 ちょっと話はずれましたが、1つのデバイスを変更するということは、様々なことが発生することを覚えておいて下さい。
さて、話を元に戻しますが、自動給水型加温加湿チャンバーの加温加湿効率を安定させるために、水の量(水面の高さ)は少なめに調整されていることが多いです。 また、加温加湿器には空焚きセンサーがついていて、注射用水のボトルが空になると警報が作動すると思っている方が多いですが、完全に加温加湿チャンバーの水がなくなり、ヒータープレートの温度が上昇することによって、異常加温状態であると判断されたときに警報が作動する加温加湿器が多いです。 この警報の作動時間は、空焚きの状態になってから30分もかかることがあります。 最近では、加温加湿チャンバーの水の高さが低下すると警報が作動する加温加湿器も発売されてきていますので、この様な加温加湿器を使用する選択も必要でしょう。
自動給水型加温加湿チャンバーの加温加湿効率が低下することの対応としては、加温加湿器出口の温度を上昇させる必要があります。 口元温度とチャンバー出口温度の差を変更しなければ、口元温度を上げれば、自動的に水温も上昇し、加温・加湿効率は上がります。 口元温度を1℃だけ上げることでも、吸気回路内の結露が多量に発生することもあるので、温度の設定は0.5刻みで調節することをお勧めします。 一度、呼吸器回路に結露がついてしまうと、加温加湿器の設定温度を調節しても、なかなか吸気回路内の結露は減っていかないのです。 そして、吸気回路の結露が見られなくなったときは、すでに患者への水分供給は低下しており、分泌物の固形化は進んでしまっているのです。
加温加湿効率が悪いと感じた時には、口元温度は変更せずにチャンバー出口温度だけ0.5℃づつ上げていきましょう。 結露が多量になってきたら、チャンバー出口温度は変えずに、口元温度だけ0.5℃上げることで、吸気回路内のヒーターワイヤーが強く作動し、絶対湿度も維持もしくはアップさせながら、結露を減らすことも可能になります。
このような、口元温度とチャンバー出口温度を0.5℃刻みで自由に調整できる加温加湿器 Hydraltis(ハイドラルティス)9500FMは、自動給水型加温加湿チャンバーの加温・加湿効率の低下に対しても有効に使用できると思われます。
結露が多いときは、どう加温加湿器の設定を変更したらよいのか?分泌物が硬いときは、どう加温加湿器の設定を変更したらよいのか?なかなかイメージすることが難しいですが、やはり医療機器はしっかりと使いこなして、その効果を発揮するのです。加温加湿器は人工呼吸器の付属品ではありません。加温加湿器はれっきとした医療機器です。医療機器であることをしっかり理解し、しっかりと使いこなせるようになりましょう。
次回も、加温加湿器の制御に影響する要因について説明します。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、
ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。