【よくわかる!加温加湿器入門 part13 】 加温加湿器の主流はパスオーバー方式
今回から加温加湿器について説明していきましょう。
今まで色々と説明をしてきましたが、人工呼吸器の吸気ガスの理想的な加温・加湿は、温度:37℃・相対湿度:100%・絶対湿度:44㎎/Lと言えます。
人工鼻では作ることのできなかったこの理想的な吸気ガスですが、この理想的な吸気ガスに近づけることができるのが加温加湿器になります。加温加湿器は、この理想気体に近づけることのできる装置として作られています。あくまでも近づけることができるということで理解して下さい。この理由は次回に説明させて頂きます。
加温加湿器といっても今までに様々な種類の加温加湿器が発売されてきました。個々の種類の詳細は割愛しますが、カスケード型、コンチャサーム、アクアモド、カウンターフロー型などの型式や製品名が著者の記憶に残っています。
そしてメトラン社では水蒸気透過膜型のHummaxという加温加湿器を開発しています。(写真1)
写真1:Hummax回路と構造
筆者はこのいくつかの加温加湿器を研究対象とし、学会発表や論文にしています。 その中でも主流となる加温加湿器の方式はパスオーバー方式の加温加湿器です。フィッシャー&パイケル社より50年も前から発売されている方式で、一番歴史があります。 現在では多くのメーカーがパスオーバー方式の加温加湿器を製造しており、現在、日本で使用される人工呼吸器のほぼ100%でパスオーバー方式の加温加湿器が使用されています。 パスオーバー方式の加温加湿器とは、加温加湿チャンバーと呼ばれる水を入れる容器を吸気回路の途中に設置します。(図1)
図1:人工呼吸器回路図
加温加湿チャンバーに入れられた水は、加温加湿器のヒーターによって加温加湿チャンバーの底を温めて、水温を上昇させます。加温加湿チャンバーからは、水温の上 昇と吸気ガスが通過すると共に水蒸気が発生します。温度上昇し水蒸気化した水分は、吸気ガスが加温加湿チャンバーの水面を通過する際に、吸気ガスに取り込まれます。吸気ガスが加温加湿チャンバーの水面を通過することから、パスオーバー方式と呼ばれています。(図2)
図2:パスオーバー型加温加湿器(例)
加温加湿チャンバーから発生した温度と水蒸気を取り込んだ吸気ガスは、吸気回路を通過していきます。、吸気ガスが通過する吸気回路は外気(部屋の温度)の影響を受けて冷やされます。吸気回路が冷やされると、加温・加湿された吸気ガスは冷やされてしまいます。吸気ガスが冷やされることによって相対湿度は100%に上昇していきます。(最初から相対湿度が100%状態に加温・加湿されていることもあります)
相対湿度が100%になったにも関わらず、さらに温度低下を起こすと、ここで結露が発生することになります。結露の発生により、吸気ガスは水分ドロップを起こしますので、吸気ガスの絶対湿度は低下します。これにより、せっかく加温加湿器によって加温・加湿された吸気ガスの絶対湿度が低下し、理想とする吸気ガスを患者に届けることができなくなるのです。
この温度低下を防ぐ方法が、吸気回路を温めるという方法です。吸気回路を温めて結露を防げば、理想気体に近い状態で吸気ガスを患者に届けることができるのです。吸気回路内に挿入されたヒーターは、ヒーターワイヤーもしくはホースヒーターと呼ばれます。吸気回路を温める方式も時代と共に変遷し、外気の影響が少ないような工夫がされてきています。
この変遷と効果については、別の機会に説明します。
理想気体を患者に届けるためには、吸気ガスの温度測定が重要になります。筆者が40年近く前に使用していたパスオーバー方式の加温加湿器は、口元温度(人工呼吸器回路の患者に一番近いYコネクターの部分)のみを測定するものでした。その当時は、口元温度を34℃程度に調節するのが一般的でした。その後、吸気ガスが理想気体になるようにと、口元温度の設定は37℃→39℃→40℃と変遷していきました。
これと同時に、加温加湿チャンバーの出口の温度も測定し、加温加湿チャンバーの水温を調節する(加温加湿器の底のヒーターの制御)ことができるようになりました。加温加湿器の口元温度と加温加湿チャンバーの出口温度の2カ所の温度を測定し、加温加湿チャンバーの底を温めるヒーターの制御と、吸気回路を温めるヒーターの制御を同時に行えるようになりました。2カ所の温度を測定して制御することから、デュアルサーボ方式の加温加湿器と呼ばれます。
口元温度の設定と加温加湿チャンバーの出口温度を設定することで、自動にヒーターの出力が調整され、理想気体に近い状態の吸気ガスを患者に届けることができるようになりました。
また、患者の分泌物の状態によって、設定温度を調節し、適切な分泌物管理が可能になりました。
しかしながら、パスオーバー方式の加温加湿器には、吸気回路を温めないタイプや温度プローブを取り付けない(温度設定がない)タイプもあります。
吸気回路を温めないタイプは、吸気回路内における結露が多量に発生し、相対湿度は100%で患者に届きますが、温度低下により絶対湿度が低下してしまいます。気管挿管の患者でも使用できるとされていますが、十分な水分が届かないので分泌物は硬化します。また、適宜、吸気回路の水分除去をしないと、患者に水が送られて溺れてしまうことや、人工呼吸器の制御(圧への影響、吸気・呼気トリガーへの影響など)に影響します。吸気回路に結露が発生しないような設定では、かなり不十分な加温加湿状態の吸気ガスと言えます。
温度プローブを使用しないタイプでは、メーカーの決められたアルゴリズムでチャンバーの出口温度とヒーターワイヤーの出力を調節します。3段階程度の設定が可能です。基本的には、吸気回路に結露が起こらないような制御がされるため、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)用として設計された加温加湿器になります。
次回は、パスオーバー方式の温度設定と制御について説明します。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。