基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part11】 人工呼吸管理で加温・加湿が必要な理由 ~人工鼻の使用限界~

前回より人工鼻について説明をしました。

人工鼻は、加温加湿器が不要なことから呼吸機器回路をシンプルにできることや、デバイスとしてのトラブルが少ないというメリットがあることを説明しました。しかしながら、人工鼻の加温・加湿機能は絶対湿度で33㎎/L程度であり、生理的な肺の絶対湿度の44㎎/Lと比して低い性能です。したがって、人工鼻の使用には限界があります。患者さんの病態に応じて、加温加湿器と人工鼻の使い分けをする必要があるのです。もちろん、今後、説明していく加温加湿器を最初から使用することも問題はありません。

加温加湿器にもタイプがあり、温度設定ができないタイプや吸気回路内にヒーターワイヤーの入っていないタイプでは、人工鼻のほうが有効な場合もあります。人工鼻の使用の限界とは、患者さんの病態に対してしっかりとした加温・加湿機能を有する加温加湿器に変更すべき基準になります。

今回はこの基準について説明していきましょう。

人工鼻の使用限界

「人工鼻(HME)から加温加湿器に変更する基準」がRobert R.Demersらが「Heat and Moisture Dynamics of the Human Airway」(人工呼吸 19:27-33,2002)においてプロトコールを報告しています。

下記の状態であったら、人工鼻から加温加湿器に変更すべきと言える基準になります。(図)

①分泌物は多量か?

→分泌物が多量である場合には、この分泌物を硬化させないようにし、持続的に排痰を促す必要があるために加温加湿器を使用する必要があります。

②小児か?1回換気量は150ml未満か?

→小児は、炎症による分泌物の増加や粘液分泌腺が過形成を来しやすいとされています。また、線毛運動による分泌物の排出が弱いこともあり、成人よりも分泌物が多いともされています。この様なことから、十分な加温・加湿した吸気ガスが必要であるため、人工鼻は適していません。人工鼻から加温加湿器に変更する基準というよりも、最初から加温加湿器を使用するという基準になります。150ml未満の1回換気量から考えると、概ね体重15Kg未満では「最初から加温加湿器を使用しましょう」ということになります。

③気管支胸膜瘻によるリークがあるか?

④カフ無しの気管チューブを使用しているか?

⑤カフ後からの持続的リークがあるか?

→上記の3項目は、気管と気管チューブとの間に隙間があり、送気されたガスが鼻や口に漏れ、呼気ガスが大気に逃げてしまう状態で、これを気管リークと言います。

気管リークがあると、人工鼻を通過する呼気ガスが低下し、リーク率100%では全く呼気ガスが人工鼻を通過しません。人工鼻は呼気ガスに含む温度と水分をトラップすることで、次の吸気ガスを加温・加湿する構造であるため、気管リークによって人工鼻に呼気ガスの水分がトラップできなければ、人工鼻として目的が果たせません。したがって。気管リークがある場合には人工鼻ではなく加温加湿器を使用する必要があります。

⑥水分の過剰投与が望ましいか?

⑦分泌物が固くないか?

→水分の過剰投与が望ましいとは、気管における不感蒸泄のバランスが崩れ、気管における水分が足りないことによって分泌物が硬化している状態です。分泌物が硬化している状態においては、分泌物を軟化させるために十分なH2Oの分子を気管に送る必要があります。加温加湿器を使用して過剰な水分投与(十分なH2Oの分子の投与)によって分泌物を軟化させ、排痰を促します。

⑧人工呼吸時間が 96時間以上か?(AARC) 

 24時間以上か?(Williams)

→人工呼吸管理の時間が短時間であれば人工鼻による管理は可能と言われています。しかし、長期人工呼吸管理においては、加温加湿器による管理が推奨されています。人工鼻で管理できる期間を、AARC( American Association for Respiratory Care:米国呼吸療法学会では96時間(4日間)、Williamsは24時間(1日間)という時間を提唱しています。

 

以上、人工鼻から加温加湿器に変更する基準について説明しました。

人工鼻の構造やメリットやデメリットを鑑み、適したサイズの選択と適正な使用をして頂ければと思います。

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。

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