基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part10】人工呼吸管理で加温・加湿が必要な理由 ~人工鼻は加温加湿器か?~

「なぜ人工呼吸管理を行う時に加温・加湿が必要なのか」について7回に渡り説明してきました。

人工呼吸療法における吸気ガスの加温・加湿の必要性について理解して頂けたと思います。

では、吸気ガスを加温・加湿する方法にはどんなものがあるでしょうか。

大きく分けて電気的に加温・加湿する「加温加湿器」と患者自身の呼気を利用して加温・加湿する「人工鼻」の2つに分類できます。

人工鼻は加温加湿器か?

 前回、Williams Robinは、気管挿管における吸気ガスの設定は

「温度:37℃、相対湿度:100%、絶対湿度:44㎎/ℓ」であると唱えたことを説明しました。

では、機関として提唱している吸気ガスの加温・加湿レベルはどうなっているでしょう。

各機関のガイドラインは下記のようになります。

  • アメリカ呼吸療法学会(AARC:American Association for Respiratory Care)

《2012年》絶対湿度:33mg/ℓ~44mg/ℓ・温度:34℃~41℃・相対湿度:100%

  • 日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)        

《2019年》絶対湿度:≧33mg/ℓ 

  • 国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)  

《2021年》絶対湿度:≧33mg/ℓ 

なぜ、どの機関も絶対湿度の最低値を33㎎/ℓにしているのでしょうか。

これは、絶対湿度の基準を44㎎/ℓにしてしまうと、とても困ることがあるのです。

“とても困ること?“とは、人工鼻が使用できなくなってしまうのです。

人工鼻の加温・加湿性能は、絶対湿度は33㎎/ℓ程度が限界なのです。

新型コロナウイルス肺炎の蔓延とともに、院内感染を防ぐために、気管挿管による人工呼吸管理では、バクテリアフィルター付きの人工鼻を使用すること、というガイドラインが出されました。

各機関が人工鼻を使用できないようなガイドラインを作ってしまったら、新型コロナウイルス肺炎の患者の呼気に含まれるウイルスを、一番近い場所でブロックすることができなくなってしまうのです。

人工鼻を主に使用されている施設も多くあるでしょう。

まず、人工鼻を使用するメリットについて説明しましょう。

人工鼻のメリットは、呼吸器回路がシンプルであることです。

“シンプルである“ということはとても大事なことです。

Simple is BEST!という言葉も多く使われます。

シンプルであれば、トラブルを減らすことができます。

加温加湿器を使用しなければ、停電が起こっても加温・加湿が止まることはありません。

近年の人工呼吸器にはバッテリーが搭載されていることがほとんどですが、加温加湿器にバッテリーが搭載されているものはありません。

加温加湿器の制御上の理由でバッテリーが使用できないのです。

加温加湿器を使用しなければ、加温加湿器や温度センサー、ヒーターケーブルの故障の問題もありません。

呼吸器回路内に挿入されるヒーターワイヤーの断線も考える必要がありません。

コネクターの接続部も少なくなるため、回路外れの原因も少なくなります。

呼吸器回路にトラブルがあっても、シンプルであれば異常を発見するのも簡単です。

また、呼吸器回路の組み立てや交換も簡単になります。

さらに、先に述べたように、バクテリアフィルター付きの人工鼻を使用すれば、院内感染の対策にもなります。

では、人工鼻の構造はどうなっているでしょうか。(図)

人工鼻は、呼吸器回路の口元コネクターと気管チューブの間に挿入して使用します。

以前のコラムで説明しましたが、私たちの呼気には34㎎/ℓの水分を含んでいます。

 この呼気に含む水分を人工鼻にトラップし、次に送気されてくる乾燥した吸気ガスにトラップされた水分を再吸着して患者に送るのです。呼気の温度は32℃です。

人工鼻はこの温度も保持しますので、低い温度である吸気ガスを温めることもできます。

よって、人工鼻は加温と加湿ができるので、“加温加湿器”の一つとしてされます。

加温・加湿は受動的に行われているので、『受動的加温加湿器』とも呼ばれます。

人工鼻は、熱と水分の交換器ということでHME(Heat and Moisture Exchanger)と略されます。

単純に考えて、呼気の温度や絶対湿度以上に上げることはできませんので、人工鼻で作ることのできるガスは、絶対湿度は34㎎/ℓ以下になります。

各人工鼻のカタログにある性能は30㎎/ℓ程度が多くみられます。

各機関が出しているガイドラインの33㎎/ℓには若干届いていないのが現状です。

これは、人工鼻は、呼気に含む全ての水分をトラップすることができず、トラップできなかった水分は呼気回路に流れていくからです。3回ほどの呼吸(換気)で、絶対湿度は30㎎/ℓ程度に達し、安定します。

人工鼻には水分をトラップするために繊維紙(ろ紙)やスポンジが内蔵されています。

この素材には、水をはじく疎水性や水との親和性が高い親水性のものがあります。

親水性のタイプでは、塩化カルシウムなどが塗布されており、水分と塩化カルシウムの反応により熱を生じさせて絶対湿度を高めるものもあります。

疎水性のタイプは結露となった水を弾くので、水分による詰まりを防ぐことができますが、若干、加湿効率が落ちます。

親水性のタイプは、水分を取り込む性能が高いため、加湿効率は高めですが、水分による詰まりが起こりやすい傾向があります。

繊維紙(ろ紙)やスポンジの表面積や体積が大きいほど、水分を多く取り込むことができ、加湿効率が高くなります。

よって、容量の大きい人工鼻ほど加湿効率が高いことになります。

しかし、人工鼻は患者の呼気が再呼吸する死腔(デッドスペース)を増加させます。

呼気の再呼吸が多いと、PaCO2の上昇が起こります。

したがって、人工鼻のサイズには、適した1回換気量が記載されていますので、患者の1回換気量に適したサイズを選択する必要があります。(写真)

左から容量35ml(推奨換気量~???ml)、45ml(推奨換気量~250ml)60ml(推奨換気量500ml) (提供:DEAS Filter&HME)

今回は、人工鼻の1回目として、メリットや原理について説明しました。

次回は、人工鼻の使用限界について説明します。

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。

>>KIDS CE ADVISORYのHPはこちら

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