【よくわかる!加温加湿器入門 part15 】 加温加湿器の基本はパスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御
今回は、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御について説明します。パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器(図1)について、簡単におさらいしましょう。
加温加湿器に装着された加温加湿チャンバーは、底のアルミを温めることで水温を上昇させます。加温加湿チャンバーの水が温まると、水面に水蒸気が発生します。加温加湿チャンバーの水面を通過する際に、水面に発生した水蒸気を取り込み、温度の上昇と相対湿度の上昇が起こります。温度の上昇と相対湿度の上昇により、絶対湿度が上昇します。吸気ガスが加温加湿チャンバーの水面を通過する時に加温・加湿するためパスオーバー方式と呼ばれます。
図1:パスオーバー方式デュアルサーボ方式加温加湿器・呼吸回路(Vは人工呼吸器、Pは患者)
加温加湿チャンバーの水面を吸気ガスが通過する際に、温められ水蒸気化された水分と温度によって、吸気ガスが加温・加湿されます。 口元に届く吸気ガスの温度の調節は、口元温度を測定して、設定した口元温度になるように吸気回路内に挿入されたヒーターワイヤーによって温め、調整します。基本的には、吸気回路は室温によって低下するため、ヒーターワイヤーは常に加温状態であり、設定された口元温度を一定に保つように制御されます。
図2:口元にカテーテルマウントを取り付けたパスオーバー方式デュアルサーボ方式加温加湿器・呼吸回路(Vは人工呼吸器、Pは患者)
よって、口元温度と加温加湿チャンバーの出口温度の2カ所を測定し、自動的に加温加湿器のヒータプレートと吸気回路内のヒーターワイヤーを制御します。2カ所の温度を自動的に設定された温度に調節するため、デュアルサーボ方式の加温加湿器と呼ばれます。
口元温度と加温加湿チャンバーの出口の温度は個々に設定することができます。加温加湿チャンバーの出口温度の設定は、口元温度に対して加温加湿チャンバーの出口温度を何℃の差にするかを設定することが多いです。
例えば、口元温度40℃、加温加湿チャンバーの出口温度:-3℃とすると、加温加湿器チャンバーの出口温度は40℃―3℃=37℃に設定されたことになります。
デュアルサーボ方式の加温加湿器は、フィッシャー&パイケル®社によって開発され、初期は口元温度:37℃、加温加湿チャンバー出口温度:37℃(温度差:0℃)でしたが、開発の経過とともに、口元温度:39℃、加温加湿チャンバー出口温:37℃(口元温度との温度差:-2℃)になり、その後、口元温度:40℃、加温加湿チャンバー出口温:37℃(口元温度との温度差:-3℃)という設定が現在の基本となりました。
口元温度:40℃に対する加温加湿器チャンバーの出口温度の差を-3℃と設定すると、加温加湿器チャンバーの出口温度は37℃に設定されます。
なぜ、口元温度が40℃になったかというと、成人での人工呼吸管理では、口元コネクターの先にカテーテルマウント(図2)が使用され、カテーテルマウントにはヒーターワイヤーがない非加熱回路であるため、カテーテルマウントの部分が外気温度(室温)によって3℃低下すると考え、この結果として、患者には温度:37℃、相対湿度:100%、絶対湿度:44㎎/Lになって患者に送気されると考えられたからです。
加温加湿チャンバーの出口の温度を37℃になるように水温を温めると、この相対湿度は100%になり、絶対湿度:44㎎/ℓなると仮定しています。(様々な影響により相対湿度:100%にならないこともあります)。
吸気ガスは加温加湿器チャンバーを通過する一瞬で温めなければいけないため、加温加湿チャンバーの水温は、かなり熱い水温になります(60℃~70℃程度)。よって、加温加湿チャンバーを触る時は火傷しないようにしましょう。
加温加筆チャンバーの水温は、昔は『人肌程度』と記載されていましたが、吸気ガスが通過する瞬間に37℃の温度に温めなければならなので、人肌程度の水温では37℃になりません。
吸気ガスが加温加湿チャンバーの水面を通過する一瞬で、温度を上昇させ、相対湿度を上昇させる機構であるため、吸気流量が多くなると、十分に吸気ガスが加温・加湿できなくなります。
パスオーバー方式の加温加湿器は、高流量の吸気ガスを加温・加湿するのは限界があり、吸気流量が約60L/分を超えると、加温・加湿効率が低下していきます。
吸気回路は、外気温度(室温)の影響を受けるため、温度が低下し、結露を生じますが、吸気回路に挿入されたヒーターワイヤーを温めることによって、温度低下を防ぎ、結露の発生を抑えるように作用します。口元温度は40℃ですから、ヒーターワイヤーは、加温加湿チャンバーを通過する時の37℃より3℃高くするため相対湿度は下がり、乾燥化されます。
吸気回路に結露が発生しないということは、細菌やバクテリアを増殖させない効果があり、感染リスクの低下に役立ちます。口元温度センサーに運ばれる吸気ガスは、温度:40℃、相対湿度:85%、絶対湿度:44㎎/ℓになるとしています。
そして、カテーテルマウントを通過する際に吸気ガスは3℃の低下が起こり、患者に送気される吸気ガスは、温度:37℃、相対湿度:100%、絶対湿度:44㎎/ℓの理想気体で送気されると想定しています。
ほとんどの医療者は、どのような状況でも、口元温度と加温加湿チャンバーの温度を設定すれば、設定通りに制御されると考えています。しかし、カテーテルマウントで3℃低下するとフィッシャー&パイケル社が唱えたのは、あくまでも一つの想定です。
加温加湿器に表示される温度が、設定通りになっていても、絶対湿度が44㎎/ℓになっていないこともありますし、吸気回路に結露が多量に発生することもあります。
口元温度:40℃、加温加湿チャンバー出口温度:37℃(温度差:-3℃)に設定しても、必ずしも理想とする絶対湿度である44㎎/ℓにならないのです。その原因は、先に述べたように、吸気の流速が一つの理由になります。その他、様々な原因により、加温加湿器が理想とする制御になりません。
次回も、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御について説明します。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。