【よくわかる!加温加湿器入門 part12】 人工鼻の使用上の注意点とピットフォール
前回は人工鼻の使用の限界について説明をしました。
今回は、人工鼻の使用上の注意点について説明します。 人工鼻の使用には禁忌事項がいくつかあります。その一つが、加温加湿器との併用です。
人工鼻の装着中に加温加湿器を使用してしまうと、加温加湿器で発生した水蒸気が人工鼻にトラップされ、人工鼻が水浸しになり、抵抗が上昇し、空気が通過できなくなります。空気が通過できないということは患者さんが呼吸できなくなるということです。
医薬品医療機器総合機構PMDA 安全性情報No.7 2009 1月より
また、ネブライザー(吸入療法)との併用も禁忌です。ネブライザーの薬液が人工鼻に付着すると、吸入薬が患者に届かず、薬剤効果が得られないだけでなく、人工鼻が目詰まりを起こし、空気が通過できなくなります。加温加湿器と同様、患者さんが呼吸できなくなってしまいます。吸入療法を行う際には人工鼻を必ず外して行いましょう。
人工鼻は24時間毎もしくは目詰まりを起こしたら交換しましょう。とされています。では、この目詰まりを発見することは可能でしょうか。完全に詰まってしまい、空気が全く通過しなければ、人工呼吸器の圧警報や換気量警報が作動するでしょう。しかし、空気は通過するけど、詰まってしまって、患者さんが人工呼吸器の空気を吸いにくい、吐きにくいという状況が起きたら、発見できるでしょうか。人工鼻は患者と人工呼吸器回路の間に存在するフィルターですので、空気を通りにくくしています。して、人工鼻が水分をトラップすると、さらに空気が通りにくくなります。正常な状態であっても抵抗は上がるのです。正常でも1~2㎝H₂Oの抵抗があると考えましょう。よって、正常な状態であっても、図のように人工呼吸器をPCV(圧規定換気)で動作させた場合には、設定された圧と肺内圧には圧差が生じます。
最大吸気圧(PIP)は、空気が肺に通過しにくくなるので肺内圧が1~2㎝H₂O低くなります。(図1)
【図1:人工鼻が正常なとき】
PEEPは逆に、肺から呼出しにくくなるので、肺内圧が1~2㎝H₂O高くなります。人工呼吸器に表示される圧は、回路内圧であり、気道や肺の内圧ではありません。人工鼻の抵抗で圧の差が生じていることを知ることは難しいのです。
では、人工鼻が詰まり、5㎝H₂Oの抵抗が生じた場合にはどうなるでしょうか。同様にPCVで換気を行った場合には、PIPに5㎝H₂Oの圧差が生じ、人工呼吸器には20㎝H₂Oの圧力が表示しているにもかかわらず、肺内圧は15㎝H₂Oになってしまいます。呼気時には吐きにくくなるので、PEEPも5㎝H₂Oの圧差が生じ、人工呼吸器には5㎝H₂Oと表示されているのに、肺内圧は10㎝H₂Oになっているのです(図2)。
【図2:人工鼻の抵抗が上昇したとき】
人工呼吸器に表示されている圧力は設定通りであるため、圧の警報は作動しません。圧抵抗により、患者さんに届く空気が減ってしまうのと、吐き出される空気が減ってしまうため、1回換気量は低下し、合わせて分時換気量も低下します、よって、換気量の警報を適切に設定していれば警報は作動しますが、人工呼吸器の作動状況としては正常に動いているかのように見えてしまいます。これが人工鼻のピットフォールなのです。
何を指標に人工鼻の詰まり、吸いにくさ、吐きにくさをチェックするのかというと、グラフィックモニタのフロー波形です。
【図3:正常なフロー波形】 【図4:呼気時間が延長したフロー波形】
図3のような呼気のフロー波形(スムーズに吐けている)であれば正常です。しかし、図4のような呼気のフロー波形のように呼気時間が延長しています。この様な場合には、呼出できていないということが分かりますので、人工鼻の詰まりが予測できます、
図4のようなフロー波形であった場合には、新しい人工鼻に交換してフロー波形が正常になるかを確かめましょう。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。