【よくわかる!加温加湿入門 part5 】人工呼吸管理で加温・加湿が必要な理由~人工換気や換気補助の方式から考えてみよう~
前回に続き、「なぜ人工呼吸管理を行う時に加温・加湿が必要なのか」についてお話しします。
今回は、人工換気や換気補助の方式から考えてみます。
【IPPV】
本来、自然呼吸では鼻や口、上気道・下気道を通過し肺に達するまでに37℃・相対湿度:100%・絶対湿度:44㎎/Lになることは
すでにお話ししました。
人工呼吸療法と考えると、気道に気管チューブを挿入して換気をおこなうIPPV
(Invasive Positive Pressure Ventilation:侵襲的陽圧換気)が一般的に考えられます。
この方法では、気管分岐部から肺胞にかけてガスを送気し陽圧を加えて換気を行う治療法ですので、
上気道がバイパスされてしまい、私たちが持つ高性能な上気道の加湿機能が失われます。
よって、加温加湿器は必須のアイテムとなります。
【TPPV】
気管分岐部から空気を送る方法には、気管に穴を開けて気管切開チューブを挿入して行う方法があり、これをTPPV(Tracheostomy Positive Pressure Ventilation:気管切開下陽圧人工呼吸)と呼びます。この換気方法も高性能な上気道の加湿機能が失われます。
よって、IPPVと同様に加温加湿器が必須のアイテムになります。
【NPPV】
人工呼吸の方法には、上記の2つとは異なり、
1980年代から開始された新しい呼吸療法としてNPPV(Non-Invasive Positive Pressure Ventilation:非侵襲的陽圧換気)があります。
鼻や鼻と口にマスクを装着する方法であるため、上気道はバイパスすることはありません。
日本にNPPVの人工呼吸器が輸入され、臨床応用された時は、
上気道を通過するため加温加湿器は不要とされていました。
しかし、呼気弁を使用しない呼気ポートによる換気法式のため、多量のガスを送気して圧力を調節するため、
鼻粘膜刺激が強いことや、気化熱によって水分が奪われるため、上気道の乾燥化や咳嗽の誘発、
分泌物の硬化などが起こることから、現在では、加温加湿器が必須になっています。
【鉄の肺】
古い話になりますが、人工呼吸器が開発されたのは1950年代でポリオ流行した時です。
この時に作られた人工呼吸器が「鉄の肺」と呼ばれるもので、首から下の体の部分をカプセルにいれて、
掃除機の様な吸引器で体に陰圧をかけ、胸を持ち上げ肺を陰圧にして呼吸をさせる装置でした、
肺に空気が入る方法としては生理的です。
この人工呼吸療法をNNPV:(Noninvasive Negative Pressure Ventilation:非侵襲的陰圧換気療法(体外式人工呼吸器))と言います。
30年ぐらい前に、NNPVの人工呼吸器が在宅向けに開発されましたが、普及はしませんでした。
現在では、BCV(Biphasic cuirass ventilation:体外式陽陰圧人工呼吸)として、
キュイラスと呼ばれるドームを胸や背中に付けて、換気補助や排痰補助に使用されています。
この方法は、上気道を空気が通過するので、加温加湿の必要はありません。
と、ちょっと脱線しました。
【ハイフローセラピー】
加温加湿器が必要な呼吸補助の方法が他にもあります。
その一つがハイフローセラピーです。
ハイフローセラピーは、経鼻高流量療法(NHFT:Nasal High Flow Therapy)、
経鼻高流量酸素療法(NHFOT:Nasal High Flow Oxygen Therapy)、
高流量鼻カニューレ療法(HFNC(T):High Flow Nasal Cannula Therapy)、
高流量酸素鼻カニューレ療法(HFNCO(T):High Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy)など
多くの呼び名、略語を持つ換気補助の治療法です。 最初はネーザルハイフローと呼ばれていましたが、
ハイフローセラピーと言う名称で診療報酬が算定できるようになりました。
ハイフローセラピーとは、1回換気量以上の流量で連続的に鼻カニューラを通して投与する治療法のため、
鼻粘膜刺激の強い治療法ですが、この治療法を可能にしているのが加温加湿器です。
【CPAP】
もう一つ、加温加湿器の必要な呼吸補助法としてn-CPAP(Nasal Continuous Positive Airway Pressure:ネーザルCPAP)があります。
鼻にプロングと呼ばれるカニューレやマスクを用いて、
一定の圧を加える治療法です。NICU(新生児集中治療室)で多く使用されます。
NPPVの一つとも考えられ、成人では閉塞性睡眠時無呼吸の治療として使用されるCPAP療法も広い意味ではこの治療法になります。
まとめ
加温加湿器が必要な様々な呼吸療法を紹介しましたが、では、加温加湿器をどのように使用していくかの基本的な考えですが。
どの治療法も相対湿度を100%にすることがまずの目的です。
相対湿度100%は水分を奪うエネルギーを小さく抑えることができます。
上気道をバイパスするIPPV、TPPVでは、温度が34℃以上でできるだけ37℃に近いガスを送ることが必要です。
その他のNPPV、ハイフローセラピー、n-CPAPでは上気道を通過するので、
皮膚温程度に調節したガスを送ると考えるのが基本です。
皮膚温とは34℃程度と考えるのが通常です。
しかし、この治療法でも体温低下を起こしたり、分泌物が硬くなったりするような場合には、
皮膚温温度以上(34℃以上)に設定する必要があります。
どの呼吸療法においても、患者さんの状態(自力で排痰ができる、乾燥気体でが誘発されない、分泌物の状態、体温などなど)に応じて、自由に加温加湿器の温度が調節できることが望まれます。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で35年間勤務し、出産から新生児、急性期、慢性期、在宅、
ターミナル期すべての子供に関わった経験を持つ。
小児呼吸療法を中心としたセミナーを多く務める。著書多数。