【よくわかる!加温加湿器入門 part37】結露の影響を考えてみよう⑤結露の元になる水は何を使用するべきですか?
結露についての5回目です。
とは言っても、ちょっとズレた話になってしまうかもしれません。
さて、皆さんの施設では加温加湿チャンバーには何の水を使用しているでしょうか。最近は自動給水の加温加湿チャンバーを使用していることが多いと思いますので、瓶針が刺せる(点滴ができる形のボトル)注射用水を使用しているのではと思います。
自動給水の加温加湿チャンバーでなく、水の減りと共に合わせてボトルから給水している場合は、滅菌蒸留水を使用しているのではないかと思います。
注射用水と滅菌蒸留水とは何が違うのでしょうか。
名前は違いますが、中身は同じになります。薬価があるのが注射用水で、薬価が無いのが滅菌蒸留水になり、薬液の希釈などに使用する場合には診療報酬で請求できますが、滅菌蒸留水のコストは病院などの施設の持ち出し(経費)になります。
では、在宅医療をされている患者さんは、加温加湿チャンバーに使用する水をどのように入手しているでしょうか。新型コロナウィルス肺炎が蔓延した際、在宅医療を行っている患者さんやご家族から、ドラッグストアで精製水が入手できなくなったという訴えがありました。在宅医療を行っている患者さんは、加温加湿チャンバーに使用する水をドラッグストアから購入していたということになります。
ドラッグストアから精製水を個人購入してもらうことって、正しいことなのでしょうか。ドラッグストアで精製水が購入できなくなった原因は、消毒薬の希釈として精製水を使用する人が増えたからです。精製水が買えなくなったことの訴えが厚生労働省に届き、その質問が私のところに届きました。
その時の解答が下記になります。
『在宅医療指導管理料に、必要かつ十分な消耗品を提供することになっていますので、注射用水や滅菌精製水は基本的に、在宅医療指導管理料を算定している病院、クリニックで払い出すことになります。しかし、医療的ケアが多い患者さんにおいて(例えば、気管切開、在宅酸素、人工呼吸器、胃瘻、経管栄養を同時に行っている患者など)このケアに必要な消耗品を全て提供すると在宅医療指導管理料の金額を越えてしまうことがあります。そのため、払い出しの個数の制限をして、それ以上の消耗品は個人購入にされていることもあります。今回の精製水に関しては、払い出さずに全て個人購入にしている場合もあると考えられます。病院、クリニックで払い出すのは、注射用水もしくは滅菌精製水で共に薬価がついておりますが、人工呼吸器や酸素装置で使用する注射用水もしくは滅菌精製水に関しては、その治療に対する診療報酬に含まれるため、注射用水もしくは滅菌精製水そのものを処方箋で出せず、薬価として算定できないため病院、クリニックの持ち出しになります。また、払い出ししていない原因として、ある人工呼吸器では月に50Lと言う多量の水が必要となり、多くの患者さんを抱える病院、クリニックでは対応できない量になってしまいます。家族が車で運べる地域は良いですが、都内で車を保有していないことの多い場所では運ぶことも大変です。この様な場合に、院外薬局に運んでもらうことも可能ですが、その費用は病院、クリニックになります。この様な現状から個人購入にされている場合があると考えられます』
「在宅医療指導管理料が行われている在宅医療の個々で算定できれば良いですが、今は一番高い指導料しか算定できません。このシステムを変えるか、もしくは、消耗品加算的な点数加算をしていかないと特に重症な症例の多い小児の在宅医療をサポートしている病院、クリニックは非常に厳しい状況ですし、解決しない問題かと考えます。
新型コロナウィルス肺炎の蔓延により、注射用水や滅菌精製水が病院の在庫として足りないという情報を聞いたことはありません。一般のドラッグストアで販売されている精製水に関しては、スプレー用の消毒剤の作成などで多く買われており、在庫がきれて入手できないという情報はマスコミでも取り上げておりますし、私の情報網として在宅医療を行っている患者さんやご家族からも入手できないという情報が多く入ってきております。
人工呼吸器に使用する精製水は医薬品、一般用医薬品、医薬部外品のどれでも構いません。以下の水道水でも良いという考え方に則ります。医療機関でつくられた精製水の製造器による精製水は、お勧めしません。 注射用水、精製水に関しては、基本H2Oの水のみであり、純度(滅菌度)が良いほど非常にデリケートで、細菌汚染が起こりやすいです。病院で作られた精製水がどのようなボトルでどのような方法で運ばれるのかを考えると、汚染をしやすい状況があると考えられるので推奨からは外しました。現状、新型コロナウィルスが混入している可能性は否定できませんので。H2Oの分子は菌を運ばず、感染リスクはありませんが、目に見える霧(エアロゾル)や液体は菌を運んだり培地になります。
注射用水や滅菌精製水でなければいけない理由は、メーカーの言い分では、医療機器を守るためであります。水道水を使った場合に、医療機器に流れますとカルキの成分が部品に付着し、故障の原因になると考えているからです。酸素濃縮器の場合は生成された酸素が加湿されてから本体内を通過するタイプもあるため、カルキの付着はゼロではないと思います。また、人工呼吸器の場合は、人工呼吸器の吸気口の後に加温加湿チャンバーがあるため、本体への影響はほぼありません。
特に最近の在宅人工呼吸器は1本の回路であり、呼気は回路の途中から排気されるのでカルキの影響はありません。2本の回路で、本体の呼気弁を使用する場合にはかなり遠い位置なので影響は少ないですが、カルキの付着の可能性はあります。
また、医療者のほとんどは、注射用水や滅菌精製水を使用すると、きれいな水の状態が保てると考えています。そのため、水道水を入れるという選択肢を持ちあわせていません。しかし、人工呼吸器の加温加湿チャンバーにこの水を入れると、即患者の持つ常在菌に汚染され、菌が繁殖しますので、水が綺麗な状態に保つことは不可能です。
菌の繁殖のことを考えれば、次亜塩素酸ナトリウムで消毒された水道水の方が少ないです。水道水は非常に濃度の薄い次亜塩素酸ナトリウム水と言ってよいでしょう。また、加温加湿器で加湿された水分はH2Oしか浮遊しませんので、カルキの成分は加温加湿チャンバーで濃縮され底に付着します。加温加湿チャンバーは基本的に1か月1回程度の交換なので、この汚れも気にすることはありません。レジオネラによる問題がありますが、60℃の過熱で死滅しますので、通常の加温加湿器であればほぼ死滅します。この問題を解決するのであれば一度煮沸をしてから使用すれば良いことになります。冷蔵庫の製氷用には水道水を使うように取り扱い説明書に書かれているのは菌が繁殖しにくいからです。日本の水道水は世界一綺麗ですし、安定もしています。富士山の天然水など美味しい水で氷を作ったら良いのではないかと考える方も多いと思いますが、ミネラルウォーターが美味しいのは沢山のミネラルが混入しているからです。注射用水や滅菌蒸留水の代わりにミネラルウォーターを使えば良いのではと考える方も多いですが、ミネラルウォーターは水道水のように殺菌がされていないので美味しいです。そして、菌が繁殖しやすい水なので、加温加湿器への使用は推奨できないです。
対策は、病院、クリニックが必要かつ十分な水を含めた消耗品をしっかり出すようなシステムにすることだと思います。が、すぐに対策は取れないと思いますし、今回のコロナは災害と同じことを考えないといけないので、どうしても精製水が入手できなければ緊急時は水道水でも良いとして頂きたいのです。災害時は、一般市民に飲料水としてミネラルウォーターは届きますが精製水は届きません。ですので、場合によっては飲料水でも良いことにしたほうが、災害が多発する昨今の日本の対策として必要であると考えます。
因みに、在宅人工換気療法が今のように一般化せず、診療報酬もなかった時代で、加温加湿器の自動給水方式が一般化していなかった約10年間、在宅人工呼吸療法で煮沸水を使用してきましたが(50名程度)、煮沸水による感染は起こっておりません」
以上が、厚生労働省への解答になりますが、厚生労働省からの解答は「あくまでも注射用水や滅菌蒸留水を使用するということ以外は認められない」ということでした。また、「精製水の入手に関して、検討し対策を考えます。」ということであった。
その後、厚生労働省より、精製水が入手できない患者・家族には、国より精製水を配給するという通知が出され患者・家族は精製水を入手しやすくなったと思われます。※
※参考)医療的ケア児者の人工呼吸器に必要となる衛生用品等の優先配布事業
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11629467/www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12793.html
新型コロナウィルス肺炎の蔓延における、精製水の入手困難についてはある意味、解決したのではと思いますが、精製水を患者・家族が購入している現状は変わっていません。
睡眠時無呼吸症候群に対して行われるCPAP療法で、注射用水や滅菌蒸留水は払い出されていません。CPAP療法を行っている患者数は約70~80万人と言われていますが、指導管理料が安いために、水を払い出すようなことはできないのが現状です。精製水を個人購入している患者もいると思いますが、水道水を使用しているのがほとんどなのではと筆者は考えています。そして、厚生労働省がCPAP療法の水についてどう理解しているかは分かりません。
人工呼吸器の加温加湿器の加温加湿チャンバーに使用する水に何を使用すればよいのかについてまとめてみます。
- 注射用水・滅菌蒸留水の使用を推奨(デリケートな水なので菌が繁殖しやすい)
- 注射用水・滅菌蒸留水は在宅指導管理料を算定している病院等が負担する。
- 患者・家族が精製水を購入するのは診療報酬上違法となる。
- 在宅指導管理料を算定している病院等は、院外薬局に注射用水や滅菌蒸留水を患者宅に配送するシステムを作り、この費用は在宅指導管理料を算定している病院等負担する。
- 災害等で注射用水や滅菌蒸留水が入手できなくなった場合には、水道水を煮沸して使用する。
- ミネラルウォーターには様々なミネラルが入っているので美味しい。ということは、菌が繁殖しやすいので、加温加湿器には使用しない。
- 厚生労働省は注射用水・滅菌蒸留水しか使用してはいけないというだけでなく、現状を把握し、医療機関に通達することや、指導管理料の改訂をする必要がある。
今回は、長文になってしまいましたが、加温加湿チャンバーに使用する水ひとつに対しても、しっかりと理解して使用する必要があるということです。ただ単に、注射用水や滅菌蒸留水を使いましょうと言っても、簡単には変えられない現実があることを知り、気管切開で人工呼吸療法をされている患者さんには、注射用水や滅菌蒸留水が負担なく使用できるシステム作りが早急に必要であるのです。
次回の連載も、お楽しみに。
~この記事の執筆者~

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。
