基礎知識

【よくわかる!加温加湿器入門 part25】加温加湿器の設定③ HFOモード使用時①ピストン式人工呼吸器の場合(No.1)  

 今回から、加温・加湿に影響する換気モードに対して加温加湿器をどう使用するかについて説明していきます。

 今回は、HFOモードです。

 人工呼吸器の空気の流れは、吸気回路から患者に送気され、患者の呼気は呼気回路に流れていく一方向性が通常です(図1、2)。

 しかし、HFOモードの空気の流れは、呼吸器回路の中で吸気・呼気のガスが高頻度に振動しながら、呼気に流れていきます。(図3)

この制御は人工呼吸器によって異なります。

今回はピストン式人工呼吸器について考えていきます。

 HFOを世界中に広め、HFOで多くの赤ちゃんを助けてきた人工呼吸器はメトラン社が40年前から取り組み、製造販売し、常にバージョンアップしてきたピストン式のHFO人工呼吸器です。(図4)

図4:ピストンHFOの変遷

 HFOモードができる人工呼吸器の代名詞と言えば、メトラン社のピストン式人工呼吸器と言われるほど、時代を作ってきました。HFOの振動を作るのにピストンを使用するという画期的な方法で、この人工呼吸器がなかったら助けられなかった赤ちゃんがたくさんいます。

 HFOモードの空気の流れは特殊であり、加温・加湿の制御に影響しますので、加温加湿器の設定での注意点などを含めて説明していきます。

 HFOは、肺に負担をかけずに、低コンプライアンスの肺に対してCPAP(平均気道内圧:MAP)を加えて、虚脱した肺胞のリクルートメントをすることで、酸素化の改善を図ることが出来ます。本来、高いPEEPをかけて、そこに強制換気を行うと、高いドライビングプレッシャーにより肺胞には負担が掛かります。しかし、HFOでは高いMAPを中心に、ここに小さな振動を加えることで換気を促し、二酸化炭素の排出もできるという画期的な換気法です。

 高いMAPをかけると、肺のリクルートメントができるために、機能的残気量(FRP)を増加し、肺毛細血管との接触面積が増え、酸素化効率が上昇します。これによって、吸入酸素濃度を下げることができます。

 高濃度酸素に暴露されないために肺胞を壊すことが低下します。また、窒素が肺胞に残るため、窒素の洗い流しによる吸収性無気肺を予防できます。低出生体重児では未熟児網膜症の発症も低下させることが出来ます。

 また、強制換気をせず(大きなドライビングプレッシャーを加えないこと)、死腔より少ない空気を高頻度にして換気するため、肺胞の虚脱、過伸展が起こらず、肺胞は小さな振動が起こるだけなので、肺胞にダメージを与えることが軽減されます。

 肺胞にダメージを与えないというより、肺胞を休ませるLung rest(ラングレスト)の状態を作って、肺を守ることができると言った方が正しい表現になるでしょうか。この振動を作成するのが呼気回路の最後にあるピストンであり、ピストンは非常にパワーのある振動を作ることが出来ます。

 呼吸器回路内にピストンで振動を伝える際、呼吸器回路内の空気は死腔となり、この空気が多いと振動の強さ(アンプリチュード)が低下してしまいます。

 加温加湿チャンバーの上部の空気が、アンプリチュードを減衰させる原因となるため、加温加湿チャンバーの出口にインピーダンスバルブ(図5)というデバイスを取り付けることで、加温加湿チャンバーの空気によるアンプリチュードの減衰を防いでいます。

図5:インピーダンスバルブの構造

 加温加湿チャンバーにこのデバイスがあるということは、ピストンで作られる振動は、吸気回路にも届くということになります。

 アンプリチュードは、口元コネクターの圧とされていますが、呼吸器回路内圧と考える方が正しくなります。(図6)

図6:CMVとHFOの圧波形の違い

 ピストンの動きで設定されるのがストロークボリューム。そして、ピストンが1秒間に動く回数が周波数で、1秒間に515/秒(5Hz15Hz)動くので、高頻度換気と呼ばれる所以です。

 ストロークボリュームを患者に送気される1回換気量と考えてしまう医療者も多いですが、あくまでも呼吸器回路内の空気を振動させる量であり、気管チューブを通過して肺胞に届くのは設定されたストロークボリュームうちの極少量の空気です。通常の1回換気量よりも少ない量、いわゆる死腔よりも少ない量が肺胞に届くだけなので、肺胞には小さな振動しか起こりません。例えば、ストロークボリュームを30mlに設定すると、そのうちの3mlが気管チューブを通過して肺胞を振動させます。

 肺胞には小さな振動しか起こらないので肺胞には負担がかかりません。よって、肺胞を休めておくLung restの状態が作れるのです。例えば、ストロークボリュームを50mlと設定すると、呼気側から患者方向に50mlの空気が送られたら、次に患者方向から呼気に向かって50mlが吸い出されます。これを1秒間に15回(15Hz)というもの凄い速さで動きます。ですから送気された全てのガスが肺胞に入るわけではなく、ほとんどのガスが呼吸器回路内のみで動きます。例えば、ストロークボリューム50mlのうち3mlだけが気管チューブを介して肺胞に達し、同じ量の3mlが肺胞から吸い出されるので、肺胞でエアトラッピングが起こることはありません(MAPで気道がしっかりと開いていることが条件となりますが)。

 この時の口元圧(回路内圧)が、MAP15H2Oに設定すると、そのMAPを中心に上方向の最大圧が15H2O、下方向の最小圧が15H2Oの正弦波(サイン波形)がグラフィックモニタに圧波形として描かれます。アンプリチュードは最大圧と最小圧の合計となるため30H2Oになります。しかし、肺胞の圧波形は、グラフィックモニタとは異なり、MAPを中心に5H2Oぐらいの圧幅の小さな波の波形になっています。肺胞に伝わった振動によって気管や肺胞には、乱流や振り子現象など様々な空気の流れによって肺胞から二酸化炭素が口元方向に導かれていき、二酸化炭素を吐き出すことが出来ます。

 呼吸器回路の硬さや長さ、太さによってコンプレッションボリュームが変わります。また、患者に挿入される気管チューブの太さ、長さも抵抗になります。これらの要因によって、アンプリチュードが作られます。同じストロークボリュームに設定しても、呼吸器回路や気管チューブの太さが変われば、アンプリチュードは変わります。 アンプリチュードが変われば、気管チューブを通過するガスも変わってきます。

 適正なMAPが設定され、気管が広がり、肺胞がリクルートメントされれば、ガスは肺胞に達し、振動が起こります。しかし、低いMAPで気管が広がらない、肺胞が広がらなければ、ガスは気管を通過せず、肺胞にも届きませんので、肺胞の振動は起こりません。この時は、設定されたストロークボリュームは呼吸器回路内だけを行き来しているだけとなります。

 ピストンによって送気と吸い出しを行うだけでは、同じガスが呼吸器回路内を動くだけで、フレッシュなガスにはなりません。患者から吐き出された二酸化炭素は呼吸器回路に蓄積していくため、患者は高炭酸ガス血症になってしまいます。よって、呼吸器回路内のガスをリフレッシュするために、人工呼吸器からは一定のガスが流れます。これをベースフローと呼び、10L/分程度に設定されます。ピストンによってHFOを作り出すため、ベースフローは10L/分程度で良いですが、ピストンを用いないでHFOを行う人工呼吸器では、多量のベースフローが必要となります。

 ベースフローが流れることによって、患者から吐き出された二酸化炭素を再呼吸することが少なくなるため、PaCO2をコントロールできるようになります。先に述べたように、呼吸器回路内の振動は、加温加湿チャンバーの出口まで伝わります。

 ストロークボリュームが大きくなり、アンプリチュードが高くなるほど、呼吸器回路内での空気のミキシングが起こり易くなります。ベースフローによって、呼吸器回路内のガスはフレッシュなガスになりますが、空気のミキシングにより、呼吸器回路内のガスはフレッシュなガスに入れ替わらない状況も起こります。この様な場合には、ベースフローを少し増やすことによって呼吸器回路内がフレッシュガスに置き換わり易くなり、PaCO2も下げることが出来ます。

 HFOの原理の説明になってしまいましたが、HFOにおける空気の動きがイメージできたでしょうか。 

 HFOにおける空気の流れが分からないと、HFO中の加温加湿器がどのように制御されるのかを理解することが出来ないので、あえて説明しました。ここに気管チューブのリークまで考えると、さらに複雑になるので、このあたりでHFOの説明は終わりにします。

 次回はHFOにおける加温加湿器の制御について説明します。

お楽しみに!

 

 

 

 

 

 

 

~この記事の執筆者~

松井 晃

KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。

小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療、ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。

>>KIDS CE ADVISORYのHPはこちら

 

 

 

 

関連記事

お気軽にご相談ください

電話番号:048-242-0333

加温加湿器.comは、医療関係者向けの加温加湿器に関する専門情報サイトです。特に人工呼吸器用加温加湿器とハイフローセラピー用加温加湿器に関する基礎知識から応用知識まで、より深くご理解頂く為のお役立情報をお届けします。