【よくわかる!加温加湿器入門 part23】 加温加湿器の設定①「理想的な吸気ガスの温度は37℃でよいの?」
前回までは、パスオーバー方式&デュアルサーボ方式加温加湿器の制御に影響する原因について説明してきました。
今回からは、患者の病態に応じた人工呼吸管理における「加温加湿器の設定」について考えていきましょう。2020年1月に初めて日本で確認された新型コロナウィルス肺炎。その後、この感染症は世界的に広がり、日本では緊急事態宣言が出されるほど、大変な状況となりました。新型コロナウィルス感染症の症状としては、熱発、咳嗽、節々の痛みなどがありますが、体温が40℃まで上昇するケースもあります。新型コロナウィルス肺炎は呼吸器感染症であるため、呼気によってウィルスを含んだ飛沫が吐き出されます。呼気によって部屋がウィルスで汚染されない対処が必要になります。
気管挿管による人工呼吸管理においては、院内感染を防ぐためにバクテリアフィルター付きの人工鼻の使用がガイドラインとして出されました。成人であれば、カフ付きの気管チューブを使用するため、気管リークはほとんどありません。気管チューブと呼吸器回路の口元コネクターの間に、バクテリアフィルター付きの人工鼻を使用すれば、患者から排気されるウィルスを含んだ呼気をブロックできるため、院内感染の防止に役立つという考えです。合わせて、人工呼吸器の汚染を防ぐために、人工呼吸器の吸気側(乾燥気体)と呼気側(ウェットの気体)にバクテリアフィルターを取り付けることも推奨されます。呼気や人工呼吸器の呼気側にはウェットな気体が流れるため、人工鼻やバクテリアフィルターの交換は最低1日に1個となり、コストがかかる人工呼吸管理になりました。
さて、以前のこのコラムにおいて、人工鼻の機能や使用できる患者の状態を示しましたが、新型コロナウィルス肺炎の患者さんは人工鼻の適応になるでしょうか。
呼吸器感染症である新型コロナウィルス肺炎の患者さんの人工呼吸管理は長期になることが予測されますし、しっかりと分泌物を柔らかくして、しっかりと排痰させなければいけない病態です。よって、本来であれば加温加湿器が適応になります。しかし、院内感染防止が優先されたため、バクテリアフィルター付きの人工鼻の使用が推奨されたのです。
人工鼻の使用によって、分泌物が硬化し十分な排痰ができないことや、気管チューブが分泌物によって詰まってしまったということを多く聞きました。新型コロナウィルス肺炎の患者さんの治療を優先するのであれば、加温加湿器を使用するのが良いことになります。
と、新型コロナウィルス肺炎のことばかりになってしまいましたが、今回のテーマで大事なのは体温が40℃近くまで上昇しているということです。 患者へ送気するガスの理想的気体は、温度:37℃、相対湿度:100%、絶対湿度:44㎎/Lであると何度も説明してきましたが、40℃に熱発している患者に対しても同じで良いのかを考える必要があります。 (下図をご覧ください)
体温より低い温度の吸気ガスが送気された場合、そのガスは温められ、相対湿度が低下します。絶対湿度が44㎎/Lに維持されていても、ガスの温度の上昇によって相対湿度が低下するということは、高温かつ低湿度のガスとなり、早く相対湿度を100%にしたい!という作用が起こり、気管分岐部から水分を奪います。水分が奪われることによって、分泌物は硬化し、排痰しにくくなってしまいます。排痰ができないことによって、無気肺が起こりガス交換も悪くなります。肺コンプライアンスの低下に対し、人工呼吸器は高いPEEPと最大吸気圧が必要になります。可逆性のある悪い肺胞や良い肺胞に負担をかけ、肺を壊し、不可逆性の悪い肺胞を作ってしまいます。
人工呼吸器によって肺が壊れる病態を、VILI:ventilator-induced lung injuryと言います。新型コロナウィルスが死滅しても、人工呼吸器から離脱できないことや、離脱できても在宅酸素療法が必要になったり、時に、死に至るということになります。分泌物が排痰できないと、治療に難渋し、人工呼吸管理が長期化し、肺が壊れるという悪循環を招くことになります。
加温加湿器の使用は重要であることは言うまでもなく、発熱している患者には、その体温に応じた口元温度を設定し、そのガスが相対湿度:100%になるように調節する必要があると考えます。加温加湿器は人工呼吸器の付属品で、吸気ガスを加温・加湿するだけの装置と考えがちですが、『分泌物管理ができなければ人工呼吸管理無し!』という筆者の思いから考えると、いくら高額な人工呼吸器を使用しても、加温加湿器を適切に使用して、分泌物を良い状態に保つことができなければ、『良い人工呼吸管理』にはならないのです。
前回も書きましが、新型インフルエンザが流行し、気道が粘液線の分泌物で詰まった患者に対して、加温加湿器を最大にして、吸気回路がジャバジャバになるほど可及的に加温・加湿したことによって気管分岐部のYの形をした分泌物が引けたことで、患児を完治に導けました。
加温加湿器は治療機器としてとても大切な医療機器であり、加温加湿器の適正な選択と使用によって、多くの患者を助けることができると確信しています。
発熱患者では、口元温度を40℃で、吸気回路に多量の結露を貯留させるぐらいの加湿ができる性能を持つ必要があり、Hydraltis(ハイドラルティス)9500FM加温加湿器は、この設定に近づけられると考えられます。
~この記事の執筆者~
松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。臨床工学技士。
小児専門病院で40年間勤務し、出産から新生児医療、急性期治療、慢性期医療、在宅医療,ターミナル期すべての子供に関わり、子供達から“病院のお父さん”と呼ばれる臨床工学技士。
小児呼吸療法を中心としたセミナー講師や大学の講師などを務める。著書多数。