加温加湿器と結露
加温加湿器と結露
人工呼吸管理下において、理想的な吸気ガスの加温・加湿を得るためには
患者様に送られるガスをできるだけ生理的な温度・相対湿度に保つ必要があります。
加温加湿器には人工呼吸器から送り出されるガス(酸素+空気)に対して
患者様の体温に近い温度とその温度で結合できる最大の水分保持できる最大の湿度(飽和水蒸気)を送気することが重要とされています。
人工呼吸器から1呼吸をした時のガスの流れを飽和水蒸気の旅に例えて説明していきます。
結露の発生
加温加湿器は人工呼吸器から送られる低温なガス(中央配管から供給される酸素は低温かつ乾燥、圧縮空気も除湿された空気です)が水の溜まった加温加湿チャンバーの水面を通過する際に加温・加湿します。
加温加湿チャンバーの底面にあるヒータで水温を温めて水蒸気を発生させます。吸気ガスが加温加湿チャンバーを通過する際に、加温加湿チャンバーの出口の吸気ガスの温度が体温の37℃になるように水温を至適温度まで加温します。
吸気ガスは、加温加湿チャンバーを通過する際に、その温度で最大に含むことのできる水分を蓄えます(相対湿度:100%、飽和水蒸気)
加温加湿チャンバーを通過した吸気ガスは1m近いチューブの内面を通りながら患者の口元付近までやってきます。
このチューブの外側は室温の影響を受けて放熱して吸気ガスの温度は低下し、相対湿度:100%は維持されますが、絶対湿度は低下して、結露が生じてしまいます。
空気は、温度が高いほど多くの水分を取り込むことができます(飽和水蒸気量)
よって、吸気ガスの温度が低下すると、気体に取り込むことのできない水分が結露(水)となって回路内に貯留するのです。
加温加湿器の結露対策
そこで加温加湿器は、この水分損失を防ぐため、チューブの内腔にヒーターワイヤーを入れ、室温によって吸気ガスの温度が低下しないように温める機能を持っています。
ヒーターワイヤーは、加温加湿チャンバー出口から患者口元付近まで挿入されます。
加温加湿器は、加温加湿チャンバー出口温度と口元温度の2カ所の温度をリアルタイムにモニタすることで、設定された温度になるように加温加湿チャンバーを温めるヒーターと吸気回路を温めるヒーターワイヤーを自動的に調節できるように温度の損失を補う制御方法に改良されましたそれでもチューブ内の結露は完全になくなりません。
チューブの室温によって、内側と外側は10℃近い温度の差が生じています。
この温度差によって吸気ガスが冷やされて結露が発生します。
この結露を防ぐ役割を持つのがヒーターワイヤーです。
初期のヒーターワイヤーは、ワイヤーに引っ掛けて吸気回路の中に挿入するタイプでした。
できるだけまっすぐに挿入しても、吸気回路内では波打ってしまい、温められるのはヒーターワイヤーの付近だけで、吸気ガスを均等に温めることができる構造ではありませんでした。
一般的に、吸気ガスの口元温度が40℃になるように、ヒーターワイヤーによって温められます。
加温加湿チャンバーの出口の温度は37℃に対して、口元温度は40℃になりますので、ヒーターワイヤーは3℃高くなるように作動します。
この加温加湿器が理想的に働いたとすれば、吸気回路内を通過する吸気ガスの相対湿度は85%になり、結露がつかなくなります。
しかし、様々な要因によって、結露が生じます。
その一つの原因は、山谷のある蛇腹チューブの使用です。
蛇腹チューブを流れる吸気ガスは、乱流を起こしやすいために温度低下の原因になります。
蛇腹のチューブは外気と触れる表面積が大きいため、吸気回路が冷やされやすく、結露が生じやすいです。
また、一度発生した結露の水は、蛇腹チューブの山側に水が貯留するため、ヒーターワイヤーの加温でもなかなか気化してくれません。
この貯留した水は、細菌やウィルスの培地となり感染のリスクとなります。
結露防止の方法の一つとして、外気の影響を受けにくくするため、チューブの外側をビニルでカバーすることで、空気の層をつくり、断熱作用によって結露を防ぐ工夫を持つ呼吸器回路もあります。
ヒーターワイヤーをらせん状にして、吸気回路の内面の蛇腹の山の部分にヒーターワイヤーがはまり込み、吸気回路そのものを温められるようなタイプが作られました。
しかしながら、完全な断熱はできず、外気に冷やされた吸気回路を追っかけるように加温するため、結露を完全になくすことはできませんでした。
呼吸器回路には、回路を強固にするための補強材を(つぶれなくする補強材)吸気回路の外側をらせん状に巻いてあるタイプがあります。
その補強材の中にヒーターを埋め込むことで、室温と吸気回路内を断熱することで結露を減らそうとする機構を持つ呼吸器回路が開発されました。
また、吸気回路内での乱流を防ぐために、内壁の凸凹をなくしたスパイラルチューブが開発されたため、結露の発生も少なくなりました。
このような工夫があって(相対湿度は85%なので飽和水蒸気ではありません)、理想的とされる絶対湿度(44㎎/L)を保った吸気ガスが患者口元まで運ばれていきますが、まだ難関は残されています。
次に口元のコネクタ(圧コネクタなどが附属しています)ここも非加熱状態で室温の影響を受けます。
さらに最近増えた閉鎖式吸引システムのエルボコネクタの接続です。これも口元コネクタ同様に非加熱で放熱します。
次に換気量センサーです。
換気量センサーは熱線を使用したものが多く、イン・アウトに整流のための金属メッシュ様なものが配置されており結露を増長します。
水が溜まると測定波形にノイズが乗ったり、測定不良を招きます。
その後、気管チューブが待ち受けています。気管チューブは呼吸器回路と患者の口角までに距離があり、室温にさらされて温度低下が起こり、絶対湿度が低下します。
無事肺胞まで届けられた飽和水蒸気で維持された吸気ガスは無事勤めをおわり帰路に立ちます。
帰りは呼気ガス(CO2は4~5%)となります。空気(21%)の換気であれば、呼気には17%程度の酸素が含まれます。呼気ガスは34℃程度の飽和水蒸気になり換気量センサーから閉鎖吸引コネクタを経て口元コネクタを通り、呼気側のチューブに流れ出ます。
このとき呼気側のチューブにヒーターワイヤーがない場合、チューブは室温の影響を受けて冷やされ、結露が発生します。
これらの結露水はチューブの中間(最下部)に設けられたウォータトラップになだれ込みます。
そして湿度の低下した水蒸気は人工呼吸器の開放された呼気弁を潜り抜けて機外に排気されます。
呼気弁のデザインにより一部、呼気チューブに戻ったり、機体内の内の排水槽に貯留したりします。
呼気側にヒーターがあるタイプの呼吸器回路は、飽和水蒸気である呼気ガスを加温することで相対湿度を維持して、結露が発生しないようにします。
よって、ウォータトラップは必要なくなるため、ウォータトラップの水抜き作業がなく、管理を簡素化できるメリットがあるだけではなく、水を捨てる操作による呼吸器回路の汚染を防ぎます。
また、結露水による細菌やウィルスの培地にもならないので、感染リスクを低下させます。